弓フェア その3

先週見せてもらった某メーカーの金スペシャル(多少横反りがあった)と、ギヨーム金(横反りあり)の毛替え完了の連絡が楽器店から入ったので再度出かけた。他に問屋から新たな金スペシャル2本も取り寄せてくれたそうだ。

お店の試奏ブースに運ばれて来たチェロ弓4本は、確かに新品状態だった。松脂はギヨームを持参したのでたっぷり塗ってやったが、簡単には松脂がくっつかない。しょうがないので、楽器の掃除用の綿布を小さく切って、松脂を塗ったばかりの毛を綿布で挟んで、スルスルとなでる。布で擦って松脂を新しい毛に馴染ませるのは、弓作家から聞いた方法。こうすると松脂が付着しやすいのだ。結局、30分ほど4本の弓に松脂を付けるだけの作業をしていた。

店員さんが仰るには、ギヨームは日本で5本の指に入る毛替え名人がやったそうだが・・・・毛にテンションをかけると横反りが発生する。毛のバランスを左右で変えて、テンションをかけた状態で竿が真っ直ぐになるように毛を張る方法もあるが、2回毛替えしても横反りが治らないのは、竿自体に癖があるのだろう。毛を緩めれば竿は真っ直ぐだが、いざ、弾こうとすると横に少し曲がる。値段が高いギヨームの金らしく音の質感の高さはさすがだったが、変な癖がある弓は選べない。

前回、音が気に入った某メーカーの金スペシャルは、今回、毛替えした後でも横に反る癖は残っていた。従ってこれも却下である。

続いて追加で2本入ってきた金スペシャルを試す。1本は横反りする弓とそっくりの外見。こげ茶色の細身の竿で、硬い材を使っているから腰はしっかり。ドライなキャラクターの弓で、パリッとした弾き心地と音色を持っていた。横反りは一切ない。音質は横反りする弓より上等かもしれない。もう1本の金スペシャルは明るいオレンジ色の竿で、ちょっと軽い弾き心地。スプリングがソフトな傾向で、音もモッサリ。これなら下のグレードの銀弓で十分。

ということで、今回、新たに見せてもらったこげ茶色のスティックの弓が最終候補に残った。カッチリした操作性能と硬質感のある音を持つので、細かい音符が連続する早いパッセージを弾くときに有利だと思う。

比較用に持参したヴィネロンとロン・ディ・マと金スペシャルの3本を交互に弾いてみる。操作性に関しては遜色ない。むしろ3本の中ではスペシャルの竿の剛性感の高さが心地よい。剛弓のイメージがあったロン・ディ・マは、これに比べたら贅肉がいくらか付いたふくよかな弾き心地に感じられた。ヴィネロンは、さらにおっとりしている。スペシャルは無駄な脂肪がないアスリートの身体のような身軽さがあって、細かい音符が連続する箇所では、一番スピードが出た。

音質面では、ヴィネロンはオールド弓らしい含みのある幅広い音が出るので別格。ついでロン・ディ・マが、ゆとりを感じさせる懐の深い音色を出していた。2本ともしっとりした湿潤系の音色といえる。一方、スペシャルはスリムな性格ゆえ、音色もシンプルでタイト。細身な感じというか、音のフォーカスが鋭く出るタイプで、音にふくよかさを求めると期待外れになる。潤いは感じられないドライな音色だから、カチカチ・ばりばり弾くには好都合である。音色の質感に関しては、定価40万円台の弓相応のポジションといえ、音の質の高さを売りにするほどの水準ではない。60万〜100万クラスの弓に匹敵する質的な高望みは出来ない。このあたりの値段のつけ方は、楽器屋さんはしっかり差別化していると思う。

手持ち弓の中に重複する性格の弓はないので、買ってもよいかなとその気になった。そこで細部の細工をチェックしたら、フロッグの中心にあるパリジャンアイと呼ぶ貝象嵌に問題を発見。表裏2面にある象嵌の片方の貝の中に、黒い汚れ(貝殻の年輪に相当する黒い縞模様)が入っていた。こういう年輪模様のある貝殻を使うのは、中国製の安弓などに多いから嫌らしい感じがする。

今回、同じ店で見たこのメーカーの4本(ニッケル、銀、金)には、年輪模様が入った貝殻を使った弓はなかった。どれも汚れのないきれいな貝が象嵌されていた。たまたま、私の最終選考に残った弓にだけ、品質が落ちる貝が使われていたようだ。

音には関係ない部品で、単純に見映えが悪いだけだが、この弓は、他社の弓が一般的に使っているパリジャンアイの2倍半ぐらい直径を増大させた特大目玉をフロッグ装飾にしている。そのため、貝殻模様の不備が普通以上に目立ってしまう。通常サイズの小さなパリジャンアイだったら貝殻の縞模様は気にならないので惜しい。金弓に使う貝の品質管理をしっかりやればいいものをと思う。大雑把なのは国民性だろうか?少々難ありの見映えに目をつぶるかどうか思案したが、量産弓だから、今後も似たような弓を見る機会があるだろうと考え、その場での購入は見送って帰ってきた。



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