口直しの第九

晦日の晩、NHK・TVで第九の放送を見た。指揮者はロジャー・ノリントン。 ピリオドスタイルをやっている人。

この指揮者、1980〜90年代に収録したロンドン・クラシカル・プレイヤーズとの録音でもそうだったが、時々思いついたようにテンポがつんのめったり、アクセントが突出するところがある。

N響との第九でもその癖が出ていて、流れがせかせかして収まりが悪かった。ノンビブラート奏法に徹したオーケストラの響きは透明感があって斬新な印象を与えるが、内容が音楽的かどうかは別。それぞれの部分は風変わな味付けが物珍しさもあって面白いのだが、全体はバラバラの断片の寄せ集めといった印象。近視眼的にディティールには拘泥しているが、骨太な構成が見えてこない感じがする。第九を素材にして料理を作り「こんなん、できました」と披露されたような。

そこで口直しに重厚長大な第九を聞くことに。日本のオケの録音から探して選んだのは、朝比奈隆の1985年盤。オーケストラは大阪フィル。

3度目のベートーヴェン交響曲全集に含まれる1枚で、ザ・シンフォニーホールでのライブ収録。しばらく前に買って封を切らずにいたCDだが、聞いてみたら予想どおり。オーケストラの音も密度感があって立派なもの。録音状態もいい。

第3楽章までは、ゆったりと構えた自然体ながら、細かいところまで目が行き届いている。悠揚迫らざるという言葉が思い浮かぶ。終楽章に入るとテンションが一段と高まり、前半では畳み掛けるような切迫感のある雰囲気が出ている。トルコ行進曲で始まる後半は、堂々とした落ちついたテンポでじっくりと歌いこんでいるが、最後はフルトヴェングラーみたいにアッチェレランドして終わる。全体のパースペクティブがしっかり見えて、恰幅も良い第九を聞けて大満足。 朝比奈隆が77歳の時の録音だそうだ。




にほんブログ村 クラシックブログ チェロへ
にほんブログ村