Ludovit Kanta  公開チェロレッスン

カンタ先生(アンサンブル金沢の主席チェリスト)の公開レッスンを見学した。公開レッスンは、40名ぐらいの座席数がある小さなホールで開かれた。13時ちょっと前に会場に出向いたら、もうグループレッスンの2期生・1期生が勢ぞろいしていた(聴講費2500円・レッスン代は15000円)。

13時にスタートした公開レッスンの最初は9歳の女の子。ハイドンのチェロコンチェルト第1番を分数楽器で弾いた。S先生から達者な子供が出る話は聞いていたが、難しい曲なのにするすると上手に弾いていた。子供っぽいところがあったが9歳だから当然か。

2番目は学生時代にチェロを始めて17年目という男子。チャイコフスキーのペッゾ・カプリチョーゾをバリバリと弾いた。音量の大きさ、音色の華やかさといったら、先ほどの子供とは雲泥の差である。左手の指も、低いポジションでも親指を指板上に出して弾いていたし、とにかくあちこちにすばやく指が飛んで動くので、それを見ているだけでも目が回りそうだった。彼はコントラバスからチェロに転向したそうで、弓圧が強くて攻撃的な演奏というのか、猪突猛進型の弾き方になっていた。押すだけじゃなく、戻すところもないと聞き疲れする。新作楽器が悲鳴を上げるくらい大きな音量で鳴らしていたので、時々楽器から機械的な雑音も混ざっていたが、上級アマチュアとして立派な出来だった。

3番目はグループレッスンに参加してチェロを始めた初心者の女性。ハ長調の音階が危なげ。 ギターみたいにフレットがないので、耳で音程を確かめましょうと、カンタ先生は日本語で指導された。椅子の座り方、弓の持ち方、左手の構え方なども細かく教授された。 初心者向けの指導を見ていたグループレッスンの参加者にはいい勉強になった。

彼女はダウンボウで弓のヘッドが弦に接近して来ると、弓が足りなくなるのが怖くて毛を持ち上げてしまいがち。語尾がむにゃむにゃ・・・と曖昧になる弾き方になっていた。 弓をフルに使えない様子を見たカンタ先生は、ゴルフの素振りの真似をして見せて、ボールを打ったあともスイングが続くように、弓も2mのロングボウを弾いているつもりで、大きく動かすようにと指導なさった。この話を聞いたら女性のボーイングは、ぎこちなさがだいぶ消えて、楽に運弓できるようになったようだった。 左手についても親指の位置やら、ほかの指の力の入れ方などの説明があった(私の個人レッスンの先生が禁止している指弓をカンタ先生は披露していた)。

4番目はどこかのオーディションを受ける予定の若い男性で、ボケリーニとハイドンのコンチェルト第2番を弾いた。音大出でプロになろうという方なので、演奏技巧に関してはパーフェクト。強弱、緩急、いずれもそつなくきれいに決まる。マスタークラスになると、カンタ先生の指導も音楽的な表現に集中していた。

ハイドンで同じフレーズが繰り返し出てくる箇所は、そのつど表現を変化させる具体例を実際に弾いて見せてくださったので、聴衆にもわかりやすかった。上昇音形は元気にモリモリと、下降音形はおとなしくしんみりと、人間的な表情や呼吸の変化をつける事も。エコーのフレーズもそんな感じで処理する。

カンタ先生は和音の変わり目に起こるアボジャトゥーラを重視されて、フレーズの中にある重要な音形を強調する方法も実演されていた。

アボジャトゥーラ=倚音(いおん)
倚音とはコードの変わり目に存在する隣接音のこと。コードの変わり目の最初の音はコードトーンのことが多いが、ノンコードトーンをコードの変わり目の最初の音にすることがあり、その隣接音がコードトーンであるときに、最初の音を倚音という。例えば、ある小節のコードがG(ソシレ)で、小節内の音が「ラソファソ」のとき、最初の「ラ」の音のことを倚音という。ハイドンのコンチェルトには、この倚音が頻繁に出てくるのを実演して聞かせてくださった。この曲は、今まで何気なく聞いていたが、そんな仕掛けがあったとは知らなかった。

最後のレッスン受講者がプロ級の腕前だった上に、私の好きなハイドンニ長調コンチェルトをカデンツァも含めていっぱい聞かせてくれたので大満足。17時にお開きとなったが、4時間みっちり公開レッスンを見学できて大変勉強になった。







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