がんばろう!日本 スーパーオーケストラ演奏会

毎日新聞が主催するチャリティーコンサートに行ってきた。 会場はサントリーホール。曲目はベートーヴェンの第九とヴィヴァルディのコンチェルト。

アベノミクスが生まれるはるか前に誕生し、今となっては名称に時代性すら感じさせるようになったオーケストラは、毎日希望奨学金(2011年の震災から20年間、震災の年に生まれた遺児が成人になるまで奨学金をおくる予定らしい)のチャリティ活動の一環として、2011年5月から活動をスタートした。今回が3年目で3回目のコンサートだそうだ。全国のプロオケから有志が手弁当で集まって演奏会を開き、収益金と会場での寄付金を奨学生の支援のために提供している。

プログラムの巻末にある演奏家名簿には、読売日響、東京フィル、東京交響楽団都響、日本フィル、新日本フィル東京ニューシティ管弦楽団、東京シティフィルハーモニック、藝大フィルハーモニア、といった在京楽団(N響の名前はない)、 関西フィル、九州響、群馬響、札幌響、仙台フィル名古屋フィル、兵庫芸術文化センター管弦楽団、山形響、イルミナートフィルハーモニーの名前がズラリ。コンマスや首席クラスがいっぱい来ている。それにソリストとして活動しているフリーの演奏家、藝大その他の音大の大学院生など。合計で80数名 が参加している。コーラスは武蔵野合唱団、歌手はベテラン木村俊光(4楽章の歌い始めは貫禄たっぷりでした)、永井和子、それに天羽明恵、上原正敏。指揮者は、近年注目を集めている下野竜也といった面々だった。

最初に演奏されたのは、ヴィヴァルディ「バイオリンとチェロのための協奏曲 変ロ長調」。ハンガリー出身のシャンドル&アダム・ヤボルカイ兄弟がバイオリンとチェロのソロを弾いていた。さらっと流した軽いタッチのアペリティフ風な仕上げ。それよりもアンコールにやった二重奏のヘンデルパッサカリア」では、コテコテの濃厚な表情を披露して、正統派ロマの血を引く兄弟の面目躍如だった。

アンコールの最後には、震災の津波で流された流木を使って製作されたバイオリン、裏板に例の陸前高田の一本松が描かれている中澤宗幸さんの楽器(魂柱は奇跡の一本松の枝から製作されている)で、シャンドルさんがバッハの無伴奏パルティータ第2番のサラバンドを演奏した。今度は歌い崩さない生真面目なスタイル。中澤さんが製作した新作バイオリンからは、透明度の高いよく通る音が聞こえていた。音質に硬質感があるのは新作楽器の特徴なので仕方ないが、プロが舞台でソロを弾く際に使っても全然OKな楽器だと思った。実際、世界中のバイオリン奏者によってこの楽器を弾き継ぐリレー形式のコンサートが開かれているという。

メインの第九はブライトコップフの楽譜を使った伝統的なスタイル。テンポは早すぎず、遅すぎず今風に端正な感じ。表情の付け方に節度があってこまやか。しかし、パンチにも欠けていない。隅々まで行き届いた見通しのいい第九だった。 比較的スリムな編成のオーケストラが気持ちよく鳴るので感心してしまった。指揮台の下野さんは身長が低い方で、160cmぐらいだろうか。5.5頭身の、やんちゃな子供が指揮をしているみたいだった。

小柄な体がよく動き、指揮の切れは抜群。無駄な動きは皆無でわかりやすい。 私はいろんなアマオケ演奏会に参加して、舞台の上で多くの指揮者を見ている。藝大で指揮を教えている先生とかアメリカの地方オケの常任指揮者とか、上手な指揮者はすぐに、それとわかるオーラみたいなのが出ていた。下野さんは、奏者から見てこの指揮者はいいなあと思える典型的なタイプだった。 体の動きだけで音楽がわかる。音楽的な表情をあふれ出すパワーがすごい。

今日、私が座った席はL席。舞台下手側の出入り口の上あたりだったので、指揮者の姿がばっちり見えていた。セカンドバイオリンから見る指揮者の姿を、少し上から俯瞰している感じ。サントリーホールでは、今までは2階R席の後ろの方。コントラバスの背後で舞台からは少し離れる場所を好んで選んでいたが、今日のように下手側の舞台の上から指揮者を眺めるのも悪くないと思った。視覚的には右手にバイオリン(第1、第2)、中央にチェロと木管楽器、左手に金管ティンパニ、コーラスが来る位置である。直接音(特に木管)がよく聞こえるので音も悪くなかった。

第九で驚いたのは武蔵野合唱団のうまさ。アマチュアで比較的年齢層が高めだったが、精度、声量、ともに申し分なかった。年末にあちこちで開かれる第九演奏会に出て、ルーティンワークで歌う音大のコーラスなどでは時々、気の抜けた合唱を聞かされることもあるが、武蔵野合唱団は120名のパワーと透明感のある声部の分離の良さが見事だった。久しぶりに気合い十分な第九を堪能できて大満足。客席は6割程度の入りで、空席が目立ったのはもったいないことだった。

帰り際、下野さんや楽団のメンバーの皆さんがホールの出口に寄付金箱を持って並んでいた。私は下野さんの箱に寄付金を入れさせてもらった。他のお客さんたちも、下野さんが持つ小箱に寄付金を入れる人が圧倒的に多かった。

演奏会の模様はインターネットのラジオで放送されるそうだ。




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