ノン・ヴィヴラートで思い出した演奏

ノンヴィブラートで音程合わせをするのが大切という知人のアドヴァイスで、思い出したことがある。

30年前、ソフィア・ゾリステンが来日して、ムファットの「オルガンのための序曲」をノンビブラートで演奏するのを聴いたことがある。少人数のモダン楽器を使う弦楽アンサンブルだったが、各々の奏者のボーイングが厳格に統一されていて、すべすべの平滑性を保っていた。それでノン・ヴィヴラート奏法で弾いたら、どうなったか?

弦楽合奏なのに、本当にパイプオルガンが演奏しているように聞こえた。ピリオド楽器を使う団体とも違う非常にメタリックな不思議な音が出ていた。たぶん、解放弦が出す素の音色を、解放じゃない場合でも似せて出して多用していたのだろう。ヴィヴラートを使えないということは、ピッチの微調整もできないから、よほど正確に音程を合わせないとオルガン的な鳴り方は模倣できない。あんな演奏は後にも先にも、他では聴いたことがない。

解放弦は初心者と大家とピリオド奏者が好んで使うものらしい。最近のチェリストでは、ドイツのヤン・フォーグラーがモダンチェロを使いながら、開放弦を効果的に使っていることで知られている。刺激的な音が出るから、一種のスパイスになるのだろう。解放弦の使い方に関しては、その昔、バイオリンを習った先生から、上昇音形では解放弦を使用してもよいが、下降音形では絶対ダメと、何度も言われたものだ。

バイオリンだとE線を解放で弾くと、金属的な響きになりすぎて浮き上がってしまうので確かに要注意だった。チェロの場合なら、一番細いA線が問題になるだろうか。D線、G線、C線を解放で使っても、それほど違和感を感じないのはバイオリンと同じような感じ。

ノン・ヴィヴラートにせよ、解放弦にせよ、ピュアな透明感のある音色はそれなりに魅力的で、バロックや古典派の曲目を演奏する際には、そういう音が欲しくなる。私が練習しているブレヴァールやマルチェロの音楽は、そういう時代の音楽なのでコテコテのヴィヴラートは似つかわしくない。そこで、あっさり気味のヴィヴラートを採用すると、今度は音程とボーイングにシビアな精度が要求される。重々承知しているが、なかなか・・・










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