公開レッスン

ルドヴィート・カンタさんの公開レッスンに出てきた。 10時から16時まで5名が受講した。プログラムは・・・

ベートーヴェン 「チェロソナタ第4番 2楽章」 女性(ベテラン)

②バッハ 「アリオーソ」    わたし

③バッハ 「無伴奏チェロ組曲第1番  プレリュード」30代女性

ドヴォルザーク 「ロンド」  小学校低学年の女子(ばかうま)

ハイドン 「チェロ協奏曲第2番 第1楽章」40歳前後のプロ男子


最初の女性は地元オケのメンバー。発表会ではいつもベートーヴェンソナタのどれかを披露しているベートーヴェン大好きさん。ベートーヴェンの途中からハ長調の音階4オクターブの練習に切り替わり、重音もやり始めた。 次の出番であるわたしは、曲の途中から音階になるとは予想してなかったので、およよという感じ。

2番目のわたしが舞台に出ると、最前列に並んだグループ・レッスン仲間が、やいのやいのと冷やかす。「アリオーソ」は宗教曲の一部だから、テクニックや音量で勝負する必要はない。澄んだ音色でしっとりと瞑想的に弾けばよい。スローテンポでじっくりと歌ってみた。張り替えて間もないスピロコアも落ち着いてきて、A線を弾いてもギャーギャーいわなくなり、スピロ特有の浸透力のある音で心地よく弾けた。スズキ教本第5巻の中で最もシンプルな「アリオーソ」を選んだから余裕はあった。突っ込みどころ満載な曲を選ぶ選択肢もあったが、ハードルを下げたのが良かったのかどうかは微妙。

ハイポジションでちょっと音程が甘くなったところは、カンタチェックが入ってやり直す。他に前打音の長さをもっとゆっくり弾いてとか、ポジション移動を焦らずゆったりにやってとか、いくつかのご指摘があった。カンタさんと一緒に何回か弾いてOKが出たのでバッハは終わり。続いて、予想通りの音階と重音メニューとなった。 重音はこれまでに3度しか練習してない。4度、6度を教えていただいたが、すぐには身に入らないから、ヘロヘロだった。

また、優れたボーイングのイメージとして、全長2mぐらいの弓を持っているつもりで弾くといいというお話があった。長大な弓を動かすと動線の軌跡は大きな半円形になるわけで、実際の弓の動きも、そういう大きなカーブを描く軌跡の一部に適合するような動きになるのが望ましいとのことだった。 機械のように直線的に動かすのではない。

右手は手首を水平に(つまり低めに)キープさせ、腕の重みを乗せる。イメージ的には、寝ている赤ちゃんの手や、酔っぱらってへべれけになった人のぐったりした手の動きに近いのだそうだ。当然、右肩もダラっと下がってくる。

左肘はハイポジションとローポジションの双方に都合がいい場所にキープさせる。わざと肘を高くしたりする無駄な動きは不要とのこと。耳で楽器の音をよく聞いて弾きなさいとも。最初に奏法有りきではないという意味だろう。

レッスンが終わったあとの休憩時間に、カンタさんから「綺麗な音が出ていた」と講評いただいた。綺麗な音は新品弦の威力だろう。わたしはバイオリンを弾いていた時から透明感のあるクリアな音色が好きだった。チェロでも同じような音を出したがる傾向はある。ボワーっとした音、もっさりした野暮ったい音は好みでないのだ。

今朝も出かける直前までミカエル・プラットナーのエンドピンをどうするか迷っていた。見附精機の複合タイプにするか、シンプルなカーボンにするか。弦がバリバリの新品だから、シャープな音になる金属製では相乗効果が出過ぎると思われ、まろやか傾向のカーボンにした。カーボンも芯有り、中空の2種類ある中で、一番軽やかな発音が得られるボガーロ・クレメンテ社製の中空パイプを選んだ。弓はJ.アルトゥール・ヴィネロン。松ヤニは濃厚な音が出るヴィンテージロジン(アルミ缶のレオン・ベルナルデル)。この組み合わせでスピロコアの鋭敏さを中和してみた。理想の音のイメージはヨーロッパの大聖堂のステンドグラスからこぼれ落ちてくる透明な赤や青の光。そんな雰囲気の音色が出せたかどうか?

昼休みのあと、午後からは上級者がレッスンを受けた。3番目の女性はカンタさんが調整を依頼している東京の弦楽器工房からの紹介で参加したそうで、快速テンポでスタイリッシュなバッハを奏でていた。この方も音階と重音をやらされて苦戦していた。

4番目は小柄な小学校低学年の女子。チェロは分数楽器である。ドヴォルザークの「ロンド」は初めて聞いたが難易度は相当なレベル。それを大人顔負けのスピーディーなテンポでしっかり演奏したからビックリさせられた。音量も十分以上で、あんな細腕のどこから大音量を出すのだろうね?と仲間と話した。子供とあなどれない力量に感心したが、弾き方は一本調子。どんどん前に出る積極性はいいとしてもワンパターンな演奏は聞き疲れする。

同じフレーズをカンタさんが弾くと、とたんに音楽が重層的に鳴り響いて、ふくよかに歌い出す。昨日のコンサートでも感じたが、カンタさんがソット・ヴォーチェで弾くと、何とも色っぽい風情が出てくる。かすれるような弱音で歌うから聴き手の耳はダンボ状態。ああいう艶っぽさは年配のベテランならではの味なのだろう。同じことを若手がやったら気色悪いし、女性奏者がやったら色ボケとか言われかねない。

話が横にそれた。子供の演奏は力で押すだけ。それでは表現の幅が狭くなる。押す一方で引くことも必要。そういう呼吸の妙味を10歳以下の子供に要求するのは酷か。あの子がそういう弾き方を体得するのは、何歳頃になるだろう。カンタさんは、女の子の楽譜に細かく指使いの指示を書き込んでいった。それで時間が来てしまい、この子だけ音階練習はパス。

5番目はハイドンのチェロ協奏曲第2番の第一楽章。プロのチェリストだそうで、8月3日にJTホールでこの曲を弾く予定だそうだ。

パラパラと非常によく指が動く。動きすぎて上滑りし、音楽が軽くなる傾向がなきにしもあらず。じっくりと腰を据えて弾きこむ箇所や、音程が取りにくい重音などをカンタさんから指導されていた。その後、またしても音階と重音のレッスンになった。4オクターブはそつなくこなしたが、3度、4度、6度、オクターブ、1度の重音では、だんだん音程を取るのが苦しくなっていった。

カンタさんによると、音階と重音は開放弦とフラジオで音程を確認しながら1回に30分やれば十分。45分もやる必要はないとのこと。指が痛くなるから長時間の練習は無駄なのだろう。3日に1度ぐらいの割合でやって、ハ長調から初めてどんどん調を替えてゆき、一巡したら、またハ長調に戻って再開するメニューを継続してやるといいとのお話だった。何の曲を練習するにも、音階と重音練習は基礎なので、日々の練習の必須科目とのことだった。 カンタさんの練習メニューのお話は、カンタさんの弟子であるS先生からもいつも伺っている内容である。本格的に重音練習にチャレンジしてみようと思った。



カンタさんが配布した音階と重音のメニュー。






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