弦楽アンサンブル #16

ベートーヴェン弦楽四重奏曲第14番を弦楽合奏で演奏する2回目。今日は第2楽章〜第4楽章を練習した。前回、第1楽章の練習では指揮者のテンポはかなりゆったりだった。今回もその調子と予測して事前練習をしていった。しかし、パート練習ではチェロの先生が速めのテンポで弾き出したため眼と手が追いつかなくて参った。第2楽章のチェロの楽譜は、ヘ音記号テノール記号がめまぐるしく交替する。テノール記号で書かれた小節の中の1音だけが「ヘ音記号」に変わってどんと下がり、直後にテノール記号に復帰してオクターブ上がるとか、そんな感じ。それでなくてもテノール記号が出てくると一瞬たじろいでしまう私としては、そういうややこしい楽譜には困惑するしかない。指揮者の先生が「楽譜の中の読みにくい音はヘ音記号の音に書き換えるように」と忠告してたのを思い出した。ちなみに隣のおばさまは、シラーっと格好良く弾いておられた。もたもたしていたのは私だけかも。

全体練習では予想通りのかなり遅いテンポで弾かせてもらえたので何とかついて行けた。ベートーヴェンの指定はallegro molto vivace。プロの中には烈火のごときスピードで弾いている例もあるが、年輩者が多いアマチュア弦楽合奏団で、そのように弾くのは困難である。遅くしないと困るのはヴァイオリンも同様で、チェロ以上に細かい音符が連続する厄介な作業をやっている。遅く弾いても音楽の骨組みが揺らぐわけではない。むしろ細部をルーペで拡大して、じっくりと眺めているような心地がした。
「合奏すれば何とか弾けるようになる曲でしょう。独りで練習している時よりもリズムの刻みがわかりやすいから」と指揮者の先生。各パートのトップはプロの先生方が固めているとはいえ、われわれが弾ける速度で指揮して下さるので何とかなるのだ。

それにしても不思議な音楽である。この曲の練習では私はトップサイドに座っている。右隣りのビオラ(プロ奏者)がどういう音を出しているのかがよく聞こえるし、左隣からはチェロの先生の演奏がバッチリ聞こえてくる。ヴァイオリンの音もくっきり。第1楽章から第4楽章まで、対位的な音が飛び交う最前線にいると、どういう発想でこんなややこしい音楽が書けたのだろうかと不思議に思えてくる。指揮者の先生は死ぬ1年前の作品だからとか、癇癪持ちだったとか、この曲の多面的な性格について解説して下さる。55歳だからまだ枯れてはいないだろう。耳が聞こえない作曲者の心中で響いていた音のイメージは、薄明の中の幽かな気配とカンディンスキーの初期抽象画みたいな奔放なエネルギーの交錯を連想させる。

 


弦楽合奏版のCDはバーンスタイン盤とプレヴィン盤を持っている。両方共ウィーンフィルの演奏。いかに優秀なオケでも人数が多くなればオリジナルの4名による演奏のように各パートの動きが鮮明に浮かび上がるというわけにはいかない。だから参考にするなら弦楽四重奏団による録音がベターとなる。

ベートーヴェン弦楽四重奏曲のCDはかなり持っている。往年のバリリ、ハンガリー四重奏団などのモノラル録音から最近のデジタル録音までいろいろ。指揮者の先生はアルバン・ベルク四重奏団の名前を上げておられた(私は苦手。あの演奏スタイルとは相性が悪い)。こういう場合、レファレンス用に取り出すのは、メロス弦楽四重奏団とかターリッヒ四重奏団あたりのCDになる。中でも一番のお気に入りはファイン・アーツ弦楽四重奏団が1959-1966年にエヴェレストに録音した全集である。

アメリカの放送局(ABC)の後援を受けて1946年に発足、シカゴを拠点に現在まで活動している団体で、メンバーは全員入れ替わったが70年近い歴史がある。放送や教育関係の仕事が多かったため、アンサンブルは精緻で解釈も端正という模範的演奏をステレオ初期に残している。才気走った神経質なところがなく、大らかでゆったりとした風格を備え、同時に緻密な表情にも欠かないというなかなかの名演奏である。高名な批評家、ハロルド・C・ショーンバーグが絶賛した団体らしいが、さもありなん。某ブログでは「締めるところは締める,歌うところは歌う,アンサンブルも優秀,品格も感じられます。スタンダードと言ってもいいくらい至極真っ当な好演奏」と評されている。




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