ドボコンを聞く

平塚フィルハーモニー管弦楽団の演奏会が鎌倉芸術館であったので聞いてきた。J・シュトラウス「こうもり」序曲、ドヴォルザークのチェロ協奏曲(ソロは上村昇)、マーラー交響曲第1番(通称 巨人)」、アンコールに交響詩「巨人」のために作曲され、後に交響曲に仕立てる際に削除された「花の章」をやった。

お目当てのドボコンはなかなかの聞きものだった。上村さんの楽器はゴフリラーだそうだ。音は特に大きいわけではないけど、弱音でもよく通るし、ふくよかでニュアンスに富んだ繊細な音を出していた(私の席は2階の中央付近の最前列)。2楽章がもっとも良かったが、ドライなホールで弱音が続くため聞き耳を立てる必要があった。以前、N響の藤村さん(楽器はトノーニ)が同じ曲をここで演奏した時もそうだったが、ホールがもっと響けばいいのにと思ってしまう。

30数年前、残響が長く伸びる小ホールで聞いたヴォルフガンク・ベットヒャーさんのリサイタルでは、ゴフリラーからビロードのようなしっとりした美音が朗々と鳴り響いたのを鮮明に覚えている。高音域はビオラみたいに甘くとろけ、低音はゆったりとした温かみのある太い音。何とも流麗でビックリだった(同じホールで聞いた岩崎洸さんのストラドは、もっと細身で鋭く神経質なところがあった)。その時の印象が強烈で、私にとって理想の音はゴフリラーが基準になっている。ベットヒャーはカラヤン/ベルリン・フィルの全盛時代にあそこの首席奏者を務めた人。1970年頃のベルリン・フィルの音を体現したようなゴージャスさが感じられた。後年、バッハの無伴奏組曲の録音を出しているが、音が痩せて硬目に聞こえるのは残念である。

ゴフリラーを使って録音したCDがあれば買い集めているけど、ハンガリーのチャバ・オンツァイのバッハ無伴奏組曲は、ゴフリラーの魅力を知るのに好都合。洗いざらしの木綿の風合いを想わせる油気が抜けた木質の図太い音がよくわかる。ゴフリラーはカザルスが使ったことで有名になったらしいが、そのカザルスの愛器を借りて録音したアントニオ・メネセス盤(フィリップスに入れた旧録音。新録音はビヨーム)には素晴らしい美音が記録されている。昔聞いたベットヒャーさんの音に近い。それから今回ドボコンを弾かれた上村さんもCDを出されている。

鎌倉の演奏会、オケの方は弦の人数が多い割には音が前に出てこないでこもっていたが、最後のマーラーでは一皮むけたように鳴り出した。私はマーラーの熱心な聞き手ではない。1番の演奏会はかなり昔に聞いたような気もするが記憶に残ってない。今回もドボコンがなければ来なかっただろう。CDでは分からないが、ハープが随分と活躍する曲だと知った。特に低音弦をポーンと一音だけ響かせる箇所が何度かあって、あれはハープの音だったのかと。ティンパニは2セット並んでいたし、チューバ奏者が2本の楽器を交互に取り替えて吹いたり、ホルンも大人数でと、何かと大変な曲だ。「花の章」は「大地の歌」に似た東洋風の雰囲気があり、はかなげな夢の断片みたいな可憐さを感じた。

最初から知っていたことだが、ビオラ・パートにバイオリン教室に来ている顔見知りの女性2名の姿があった。そういう弾けてる人が初心者と一緒に「開放弦」とか「きらきら星」とかをやっていらっしゃる。面白いのだろうか?
 




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