3月11日

5年前の3月11日の午前中、私は都心で開催されるレセプションに出かける準備をしていた。しかし、虫の知らせというか出るのが億劫に思えて外出を中止した(現地に行った知人の中には動きが取れず帰宅出来なかった人もいた)。

地震が発生した時間はNHKが再放送していた大河ドラマ篤姫」を見ていた。突然、地震速報の画面に変わり、東北方面で地震が起きたという。地図が出て警戒区域は東北6県のみの表示。関東は注意報の対象外だった。なので地震への備えとかは特にせずTV画面を眺めていた。

数分後、11階にあるわが家もグラグラと揺れ出した。今までに経験したことがない激しさ。1個30キロのスピーカーが踊り始めたので慌てた。揺れが収まるまでスピーカーをかかえて押さえ込む妙な格好でいた。目の前でガラスの花瓶が床に落ちて割れた。

揺れが一段落してから別室を見に行ったら、天井まである背の高いスチールラック数本が倒れて傾き、床は散乱したCDでグチャグチャ。書庫の方は棚は倒れてなかったが、多くの本が崩れ落ちていた。

後で分かったことだが、落下したCDで傷が入ったものは1枚しかなかった。バレンボイムがパリ管弦楽団を指揮して録音したモーツアルトの「レクイエム」。外周付近に10ミリ程度のヒビと、盤面を横切る大きなこすり傷2本が入っていた。恐る恐るプレーヤーにかけたら、ちゃんと再生した。CDは信号が正確に読み取れない場合は補正機能が働く。よほど酷く破損したらしょうがないが、割れ傷1本程度なら音は出てくるものらしい。それにしても崩落した膨大なCDの中で、唯一割れた1枚が「レクイエム」だったとは。

バレンボイムの演奏(84年の録音)はものものしい激情型で、こってりと濃厚な表情を付けている。ゴージャスで高カロリーなモーツアルトは今では聞けない。声を張り上げ気張って歌うコーラスに違和感があるが、ソリストにはキャスリーン・バトルの懐かしい名前もある。同じCDを後日買い直したけれど、割れたものも壊れた花瓶と一緒に保管してある。あの日のことが生々しく蘇ってくる物証だから捨てない。

地震で散乱した荷物をそのまま放置するのが嫌で、朝までかけてすべてのCD、本、ラック類を元に戻した。無理をしたのがよくなかったのか、まもなく肩が上がらなくなった。●十肩の2〜3割がかかる肩腱板断裂になったらしい。5年後の今でも肩の不調は治らず、上着のそでに腕を通す際に手間がかかるとか、買い物袋を両手に下げると肩が痛むとか、チェロの弓を長時間持つのがシンドイとか、すっきりしない状況が慢性化して現在に至っている。

地震からまもなく腕が上がらず、バイオリンのペグまで手が届かない状態になった。病院には1年近く通ったが、これ以上治療しても変わらないといわれて通院は終了。バイオリンを弾くのは諦めてチェロに転向することにした。タイミングよく近所に大型ショッピングモールが完成。大手楽器チェーンの教室が開設されたので、12月から1コマ30分のレッスンを2コマ連続で取って1時間の個人レッスンを受け始めた。●十肩の肩腱板断裂には参ったが、チェロを始めた結果新しい人間関係の輪が拡がった。禍福はあざなえる縄のごとし。

 



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