鎌倉交響楽団 第107回定期演奏会を聞く

鎌倉芸術館 大ホールでの演奏会を聞きに行った。指揮者は横島勝人。曲目は
ブラームス「大学祝典序曲」、エルガー「チェロ協奏曲」独奏:伊藤文嗣、ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」、アンコールにブラームスの「ハンガリー舞曲第1番」。

お目当てのエルガーは、かなりのまったりテンポでじっくり歌い込むスタイルだった。そうでなくてもイギリス音楽はモヤモヤする印象が強い。それをスローテンポでやるから、ますます茫洋とした感じになってくる。この曲がこんなに時間がかかるとは思わなかった。ソリストの伊藤さんは30歳になるかどうかという若手。藤沢出身で芸大を出て東京交響楽団の首席をやっているそうだ。鎌倉芸術館ではこれまでにもマイスキーのリサイタルやN響次席の藤村さん、上村昇さんによるドヴォコンとか、チェロ関係の曲を何度か聞いている。ホールの音響がドライ気味なので、チェロの音が伸びなくてイマイチの印象を受けることが多かったが、今回は随分とはっきりとした音が聞こえてきた(座った席は1階中央のやや後ろの方)。アンコールでサン=サーンス「白鳥」を弾いてくれたが、よく通る弱音の美しさが絶品だった。休憩後のベートーヴェンでも伊藤さんはオケに混ざってチェロパートの後ろの席で弾いていた(こういう光景はアマオケ演奏会では時々見かける)。

その「田園」は現在世界中で流行中のピリオド風快速テンポとは真逆の超スローテンポで始まった。往年のフルトヴェングラー以上の遅さである。しかもカラヤン流レガート奏法を徹底している。アマオケでそこまでやるかというレベル。第2楽章も遅くじっくり。最後の鳥のさえずりの場面はしみじみと吹かせていた。第3楽章も遅いテンポで始まったのでどうなることかと思ったら、途中からアゴーギクして急に早くなったり、またスローに戻ったりと、いろいろ演出を凝らしている。嵐の場面は慌てず騒がず、腰が座った堂々たるもので大家風のスタイルに「ヘェ〜」っと感心。終楽章もゆったりと歌い込み、最後は「もう終わってしまうのか」と名残惜しい気分にさせられた。エルガーといいベートーヴェンといい、ゆったりした遅さに魅力を感じる演奏会だった。アンコールのブラームスの小品もレガートに徹して、すべすべに磨き上げた演奏になっていた。最初はエルガーベートーヴェンの組み合わせに違和感を感じたが、そういう演奏スタイルを知ると納得する。

横島勝人という指揮者は初めて聞いたが、テンポを大胆に動かすし、相当に遅いテンポで可能となる細かな表情の付け方に、どことなくチェリビダッケを連想してしまった。そんな細かい指定をしてくる指揮者の要求を受け止めて見事に音にしていた鎌倉交響楽団の力量には敬服せざるを得ない。ノーミスで通していたし、管楽器が達者で(木管は三管編成だった)、とりわけホルンは上手かった。アマオケの演奏会は、普通はちゃんと弾けてればそれで十分というレベルが多い。ミスが目立って、ちゃんと弾けないオケも珍しくない。鎌響はその水準から頭一つ抜けていて、良く練られた音で芸術性を感じさせるレベルまで達している。指揮者の力量にもよるだろうが、今回のようなハイレベルなアマオケ演奏会は過去に聞いたことがない。たいしたものだと思った。




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