志賀高原ロマン美術館を見る

長野に仕事で行ったついでに山ノ内町志賀高原ロマン美術館を見てきた。長野駅から北東に車で1時間ほどの距離。志賀高原に向かう道路の両側には赤い実をいっぱい付けたリンゴ畑が広がっていた。1998年の長野冬季五輪でスノーボード競技が行われた温泉町に1997年に開館した施設である。競技会場を誘致する条件に、地元に文化施設が1つ以上あることとあったため急遽美術館を作ったらしい。設計は黒川紀章名古屋市美術館、六本木の国立新美術館、大阪の万博会場跡地にある民族博物館などがこの人の作品。いずれも自己主張が強烈で、ちょっとあくの強い建物というイメージがある。

志賀の建物も同様だった。1階の常設展示室には建築家がデザインした円錐形の展示ケースがずらっと並んでいた。移動も使いまわしも出来ない構造だから展示が固定化する。いつ行っても同じ景色なので飽きられやすいが、ここが建築家の最大の見せ場ともなっている。 今は女流作家によるバーナーワークで作られた天使が並んでいた。楕円形のワンルームで残響がすごい。時々結婚式も開催されるそうだ。

2階では女性学芸員が企画した2016年夏季企画「内在する触感」をやっていた。難解なタイトルをつけたがるのは若手学芸員にありがちの傾向。展示内容は森の植物の写真に始まり、備前焼の作家が作ったリアルな昆虫(焼き物の実物大のカブトムシ、蜻蛉、アリ、蝶の類)、人間の手をカタツムリに見立てたインスタレーション、長野の陶芸作家によるごつい素焼きのオブジェ(果実をモチーフにしたもの)、引きこもり中の若手画家による幻想的な家族の肖像などが並んでいた。生命の根源は森の奥にありということなのだろう。

比較的コンパクトな展示空間だったが内容は濃密で、かなりドラマチック。建築家の主張が強い建物を逆手にとった、ここでしか味わえない展示構成は、わざわざ訪ねる来館者を後悔させない価値がある。結構シリアスな内容の展覧会だが、遊び心も感じられた。ローカルな小さな美術館の中には、時々キラっと光るものがあり侮れない。

職員は学芸員と庶務の2名のみ。チケット販売や館内の掃除も二人でやっているそうだ。それで独自の企画展を毎年開催しているのは立派である。役場が美術館の運営内容に細かく介入しないため、入館者数を気にしないで作家と対話するような手作り感のある現代美術展が出来るのだろう。

ちなみにロマン美術館の命名は町内から募集して決めたものとか。古代ローマ時代のガラス工芸も収集しているために、こういう名称になったという。温泉に入る野猿で有名になった観光地で、猿を目当てに来る外人観光客も少なくない。名前が古代ローマ美術館と間違えやすいため、内容が違うとクレームが来ることがあると学芸員がこぼしていた。帰り際、のんびりした雰囲気の駅前で欧米からの旅行客7〜8人の姿を見かけた。



http://s-roman.sakura.ne.jp

 



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