秋の軽井沢

お茶会での話の成り行きで私が車を運転して、近所のおばちゃん3名を乗せて軽井沢に行くことになった。11日の天気は曇り、一時少雨、時々晴れという具合ですっきりしなかったが、気温はこの時期にしては高めだった。太平洋高気圧が張り出して都心の気温が29度まで上がった影響だろうか。関越道を走行していた時、「お昼はおいしい蕎麦を食べたい」おばちゃんがと言い出した。そこで、ちょっと遠回りして伊香保温泉の蕎麦店「いけや」に寄ることにした。あそこには素揚げした蕎麦に野菜あんをのせた「すごもり蕎麦」がある。長崎皿うどんみたいな揚げ蕎麦のサクサクした食感にマイルドな酢味が効いたあんの組み合わせ。おばちゃん達は大満足。さっそく自宅で作ってみようなどと話していた。

伊香保からは榛名湖の脇を通って北軽井沢までゆく山間の隘路を走行した。標高が上がるにつれて濃霧となり榛名湖ではあたりは真っ白。湖面も見えない。山を下ると霧が晴れ、標高が高くなると再び濃霧になる繰り返しだった。群馬県境から長野県に入る二度上峠を抜けた途端、霧は消えて青空が見えたのにはビックリした。山の天気は変わりやすい。そのまま下り坂が続き、間もなく錦秋真っ盛りの浅間牧場の北端に出た。

軽井沢からは千ヶ滝方面に下り、セゾン現代美術館に立ち寄った。この秋の企画展では、昔、都心にあった高輪美術館(セゾン現代美術館の前身)で展示していた古美術品(東洋、日本美術)も出しているという。西武グループ創始者堤康次郎が集めた美術品である。息子の堤清二が集めた現代アートとのコラボは意外に面白い。展示担当者のセンスと度胸がよろしく、上村松園の掛け軸が垂れ幕のバナーみたいに裸で展示室の中央にぶら下げてあったり、小林古径の金屏風が露出展示で手が触れそうな至近距離に置いてあったり。無防備なので見ている方が心配になる。一応、ガードマンが少し離れた場所で待機していたが何か起きたら間に合わない。阿弥陀浄土を描いた曼荼羅の隣に戦争の悲惨さを表現した現代美術が置いてあり、その前には鎧兜が鎮座。天国と地獄の取り合わせだろうか、対比を楽しませる趣向が面白い。夕暮れ時の広大な庭園を眺めながら喫茶室で一服してから、今晩の宿がある追分方面に向かった。

同行したおばちゃんの親族がエクシブの会員になっている関係で、今回は軽井沢エクシブ・サンクチュアリ・ヴィラに泊まることになった。エクシブは全国各地に宿泊施設がある会員制リゾート。ロココの猫脚家具が好きな人のためのテーマパークみたいなところだ。軽井沢の施設は特に大規模で、性格が異なる4種類のホテルが広大な敷地内に点在していた。隣の棟に行くまで徒歩10分ぐらいかかるため、敷地内の移動には送迎車両を使う。

サンクチュアリ・ヴィラはエクシブのVIP会員のみが利用できる上級グレードの宿泊棟なんだだそうで、燕尾服を着たスタッフがお出迎えしてくれた(小柄な人があれを着るとペンギンみたいになるのはご愛敬)。エントランスロビーは重厚な雰囲気で威圧感を感じさせる。大企業の本社ビルにある役員フロアでおなじみのマホガニーなど南方材の深い色味で統一したインテリアである。普通グレードの軽井沢エクシブ本館がシティホテル風の明るい色調で開放的なしつらえなのとは対照的だった。

案内されたスイートルームは広さ120㎡。寝室は2部屋あり、ツインのベッドルームはお約束の天蓋付き。もう一部屋は10畳ぐらいの和室。リビングルームは30畳ぐらいの広さで、南側には八角形のコンサバトリー(サンルーム)もあった。大理石張りのバスルームは10畳ほど、円形のジェットバスには底から吹き出す泡が水中照明で虹色に染まる仕掛けがあった。

装飾を抑制したセゾン現代美術館の垢抜けた空間を目にした後では、クラシックな内装が余計にくどく思えたのかもしれないが、大塚家具のショールームみたいなインテリアは、演出が濃すぎて疲れそう。一方、自宅で猫脚家具を愛用するおばちゃんは上機嫌。映画のセットみたいな空間で、お姫様ごっこでも始めそうな勢いだった。夕食時には3人とも着飾って、黒っぽいラメ入りドレスに派手なネックレスその他を飾り付けたキラキラ衣装で館内のレストランに乗り込んだ。他のテーブルは本館から来られたと思われるカジュアルな服装の客が多かったから、ちと浮いた印象は無きにしも非ず。おばちゃん達は食後に同じフロアのショップに直行。1000円のネックレス、8000円、15000円のドレスが並んで衝動買いを誘う。エクシブのショップばどこでもそういう品揃えらしい。

2日目は小諸の懐古園に行った。子供時代に疎開でこの地に住んでいたおばちゃんは、売店の老人と何やら長話をしていた。昔の町名を出して今がどうなっているか尋ねたという。懐古園では、敷地の端にある小山敬三美術館に立ち寄り、雄渾な筆致の作品を拝見した。村野藤吾設計のアール・ヌーヴォー風曲線基調の建物も見どころの一つで、簡素ながら温かみのある展示空間はいつ来ても心地良い。建築家独自のセンス、借り物ではない創意に包まれているので洒落ている。美術館前の断崖の上から千曲川の流れを眺めたおばちゃんは、昔あの川でよく遊んだのよ〜とか懐かしがっていた。

その後、佐久、野辺山、清里経由で中央道須玉インターまで南下した。途中、清泉寮で名物のソフトクリームをいただいて、ゴーストタウンと化した清里駅前商店街を経て、萌木の村のロック(清里最古の喫茶店)で休憩。17時に帰路についた。2日間の走行距離は500キロほど。車中では終始にぎにぎしいお喋りが続いていた。


 軽井沢エクシブの全景

 サンクチュアリ・ヴィラ

 エントランスロビー

 客室内 右奥に和室

 英国趣味とのこと

 ベッドに天蓋風飾り

 泡風呂でプカプカ



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