秋の展覧会巡り part2

立冬とは思えない暖かさ、日差しがまぶしい火曜の午後、東京藝術大学美術館で開催している「皇室の彩(いろどり) 百年前の文化プロジェクト」を見てきた。皇族のご成婚記念などで民間から皇室に献上された工芸品とその関連資料(宮内庁や芸大の所蔵品)を展示している。

いわゆる「明治モノ」が多く、技巧の限りを尽くした完成度の高い品々が勢ぞろい。素材も加工技術も最上級の名品ばかりで素晴らしい。しかし現代の価値観で眺めた時、芸術性という観点では高く評価出来ない、むしろ陳腐の極みと形容したくなるようなギャップが凄い。頭ではなく手のみを使った職人芸の極致の世界とでもいえようか。デザイン的には前例踏襲に徹していて、新たな世界を開くための冒険をしない。伝統はたえざる革新によって維持されてゆくが、あれでは衰退への道しか残っていない。会場内に充満する強烈な匠気に圧倒されて早々に退散した。

次にお隣の東京国立博物館表慶館で開催している「フランス人間国宝展」に。そちらは芸大とは対照的な性格の展覧会で、必見の値打ちがあると思われた。出品されているのはフランスの現存作家さんらが作った陶器、革製品、紙製品、金工、造花、銀器、べっ甲細工、家具木工、扇、傘などいろいろ。実用品レベルのよく出来た工芸品である。面白いものが続出だったけれど、私が感心したのは展示技術の方。担当者が日本人じゃないところがミソで、空間構成や照明効果の使い方など、垢抜けていてまことにセンスがよろしい。さすがにフランスで企画された展覧会、下手な現代アート展よりよほど面白かった。明治時代の建造物である表慶館明治42年開館)で洒落た展示を繰り広げるところは、そういう古建築を美術館として使いこなしているあの国らしい。

それに比べて、東博本館(常設展示)の何と退屈なこと。暗くて湿っぽい雰囲気がそこかしこに。ちょっと驚いたのは、実戦に使われ、刀身に切込傷が残る石田切込正宗などの日本刀が大量出品されていたこと。本館全体のバランスを考えると異様に刀が多い。人間を殺傷するための刃物をたくさん見せられて喜ぶ趣味は私にはない。秋の観光シーズンだから、他に見せるべきものがあるだろうにと思った(ブラウザゲーム刀剣乱舞』のヒットで日本刀を見たがる若い人が増えているらしい。そんな流行に合わせて集客を狙っているのだろうか)。従来と違って今の東博には外国人観光客がいっぱい来ている。古臭い建物での古臭い展示が海外から来られたお客さんにどう見えているのだろう。あそこはリニューアルして展示がよくなりかけたが、革新のムーブメントが続かず元に戻ってしまったようだ。



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