バケツで水を撒く写真をよく見ると・・・

1年ほど前、ツイッターに投稿された写真をめぐっていろいろ書き込みがあった。割烹着姿の女性がバケツに入った水を道路に撒く瞬間をとらえた写真である。

  

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ツイッターに紹介された時は昭和29年撮影の作者不明の写真とされていたけれど、アマチュア写真家の高島光司氏の写真で1951年にアメリカの雑誌に掲載されたものと判明した。しかし、さらに詳しく追跡調査した人がいて、当該写真の撮影時期は戦前の昭和12年6月23日。「オリエンタルフィルム使用趣味の懸賞」一等入選作品とのことで、初出はフォトタイムス誌の昭和12年9月号と判明した。撮影機材やら感材やらデータまでわかったそうだ。

https://www.facebook.com/takehikonakafuji/posts/870490486461475?pnref=story

 ツイッターにこの写真を投稿した人は真夏の暑い時期に一服の涼感を求めての投稿だったのだろう。多くの投稿は涼しげな写真を賛辞する内容だったが、中には細かい部分を観察して・・・「バケツの持ち方がヘン。右利き右投げでバケツを持つ場合、右手はバケツの底の方を持つと思うのですが」と書き込んだ人もいた。

 

この疑念に対して動作の解説を書き込む人も現れた・・・

 

「ある推測|桶は最初、女性の右側にあった。桶の取っ手を右手で持ち上げ、左手は身体の右下に伸ばして底を持った。彼女は身体の右側から左に向かって勢い良く水を撒き始めると同時に、軸足を右足から左足に変えながら、最後に桶を身体の左側に引いた。だから桶の水は奇麗な弧を描いたのではないか…。」

 

・・・フムフム。

 

写真のモデルは少数派の左利きなのだろうかとも思われたが、しかし、まてよ。写真にはネガを反転させて焼き付ける裏焼きという手法がある。左右反転した写真を印刷物に使う例は少なくないのだ。デザイン処理上の必要から意図的に裏焼きにする場合もあるし、編集者の不注意で写真が左右反転し、そのまま印刷出版されてしまうこともある。

 例えばこちらのCDのジャケット写真。ミルシティンの録音を集めたアルバム(輸入盤)では裏焼きが使われている。国内盤の写真が正しい。あご当ての位置を見ればどちらが裏焼きか判明する。海外では時々見られるデザイナーによる意図的な裏焼き使用なのか、不注意の結果なのかよくわからない。

 

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                            輸入盤(裏焼き写真)

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                 国内盤

 

明かなミスの例では、平凡社のムック「別冊太陽」の表紙などはいい例だろう。ガレを紹介した特集号で、ガレの代表作である「フランスの薔薇」の写真を裏焼きで使う失態をやらかしている。編集部にガレについて詳しく知る人がいなかったのだろうか。

 

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                     表紙の写真は裏焼き

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      こちらが正しい写真

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   同一デザインで作られた連作

 

閑話休題。女性がバケツで水を撒く写真はどうだろう。細部を注意して眺めると、これが裏焼き写真であることが判明する。ポイントは女性が着ている着物の襟。合わせが左前になっている。着物の作法をこの女性が知らないはずはない。

 

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              左前

 

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つまりこの写真は意図的に裏焼きされたものと考えられるのだ。裏焼を反転して元の写真に復元すれば、バケツの底を持つ手は右手となる。

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             右前

 

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                        (たぶんこれが)オリジナルの写真

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