バッハ「ロ短調ミサ」 CD聞き比べ会(その1)

チェロ友にプロオケ付属合唱団に参加している人がいる。最近、都心で開催されたコンサートでトン・コープマン指揮のバッハ「ミサ曲ロ短調」を聞き、北ヨーロッパの合唱団らしい柔らかな音色、特に女声の透明感のある声に惚れ惚れしたという。

 ロ短調ミサはバッハの代表作の一つであり、ミサ曲、というか西洋音楽史上のハイライトでもある。私はこの曲のCDは目についたものはほぼすべて集める主義で、現在、手元にあるCD、DVD、ブレーレイは75種類。これを全部聞き比べてみようという話になった。

 

 ピリオド系とモダン楽器系(モノラルの歴史的録音も含む)に分ければ・・・

 モダンはクレンペラー(2種類)、リヒター(3種)、ヨッフム(2種)、カラヤン(2種)、ショルティジュリーニ(2種)、チェリビダッケマゼールロバート・ショウ、ミュンヒンガー、マリナー、マウエルスベルガー、小澤征爾、ケーゲル、ヴェルナー、リリング(4種)、コルボ(3種)、ハンス・マルティン・シュナイト、ヴィンシャーマン、エネスコ・・・

 

ピリオド系では、コープマン、リフキン、アーノンクール(2種)、ヤーコプス、ヒコックス、レオンハルト、ガーデイナー(2種)、パロット、ヘレヴェッヘ(2種)、ブリュッヘン(2種)、パールマン、ビラー(2種)、ヘルムート・ミュラー・ブリュール、クイケン鈴木雅明、ミンコフスキー、ラーデマン、フェルトホーフェン、バット、ベルニウス、モルテンセン、ヘンゲルブロック、エリクソンダイクストラ・・・

 

試聴会は高級オーディオ装置をそろえているチェロ友の家でやることになった。一戸建てでリビングは二重サッシ仕立て。大きな音を出しても近所迷惑にならないのが素晴らしい。アンプはマッキントッシュ、スピーカーはタンノイその他、CDプレーヤーはDENONだった。

 

量が多いので2日にわけて聞くことにして、今日は初日。75種類の半分も進まなかったが、特に良かったのはチェロ友が生演奏を聴いたトン・コープマン盤(教会の長い残響を伴う録音が心地よく、演奏はシャープさ、力強さ、流麗さがいい塩梅でバランス、合唱の精度の高さも見事で非の打ち所がない)、ペーター・ダイクストラ盤(ミュンヘンバイエルン放送合唱団が大変に上手)、ヘルムート・リリング(2005年)SACD盤、ルドルフ・ルッツ指揮バッハ財団合唱団/管弦楽団の4種類だった。特にバッハ財団盤は合唱団のメンバーの声質が若くて柔軟性に富み、端正で格調高い演奏、臨場感あふれる録音、いずれも秀逸で現時点で最高レベルの評価となった。

 

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              ルドルフ・ルッツ盤

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                コープマン盤

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                ダイクストラ

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              リリング盤(2005)

 

ガーディナー盤(新旧)はいろいろ細工をしていて面白いが、才気が走り過ぎてアクの強さも感じられ聞き疲れした。ヤーコプス盤はテンポの緩急の幅が大きく演出過剰気味。ブリュッヘン盤(新旧)はくすんだ暗めの録音が新旧で共通、よく言えばおぼろげで玄妙、悪く言えばすっきりしない、あか抜けない印象。リリングは77年、88年、99年、2005年の4回録音している(85年の映像作品も入れると5回)。77年盤は往年の重厚長大型でテンポがかなり遅く、後になるほどスピードがアップ、切れ味が鋭くなる。2005年盤はリリングがやりたかったことを徹底した感じで録音も鮮やか。ヘレヴェッヘ盤(2回目の録音)は普通に上手でそつがないが、3回目の録音のすっきりしたたたずまい知ってしまうと、2回目は夾雑物が少し混ざっている感じがする。鈴木雅明盤は日本人の発声がスリムで硬く、演奏全体に余裕を感じさせないというのか、精一杯に聞こえる要因になっていた。チェロ友によるとヨーロッパでは独特の硬質感が珍しくもあり高く評価されているそうだ。

 

モダンオケの演奏はあまり期待はしていなかったが、クレンペラー盤(2種類)はごつごつした重厚感が独特の説得力を放っていて感心した。コーラスは気合入り過ぎ、絶叫風になっていて時代を感じさせる。若き日のマゼール盤(1965年)もヒタヒタと迫ってくる緊迫感、シリアスな雰囲気が濃厚で好印象。この人の若い時の録音は一途のひたむきさが音楽に感じられてよかった。ショルティ盤はカクカクしたリズムの細切れが目立つ演奏、ピリオド系からの悪しき影響が感じられて面白くない。チェリビダッケ盤は単に遅いだけで間延び気味と思われた。

 5時間近くかかって試聴出来たのは20数種類。タンノイから流れてくる豊かな音を堪能した。近頃はハイレゾがもてはやされているけれど、CDでもよい装置で聞けば不満は感じなかった。SACDの優位性は認めるものの、それ以前に録音ソースの出来不出来(リマスタリングの内容)の影響の方が大きい。例えばクレンペラーのセッション録音(1967年)は、1990年発売の初期盤の音が素直で聞きやすく、2015年発売のSACD盤は加工のやり過ぎで不自然に聞こえ、高価な商品にしては冴えない音質だった。クレンペラーに限ったことではないが、旧EMIの録音は初期盤CDの音質が最もナチュラルで、後から出たリマスター盤は鮮度が落ちてぱっとしない音になっている場合が多い。集中的にロ短調ミサのCDを聞き比べたのは初体験で面白かった。今回試聴出来なかった50種類は次回に持ち越し。

 

 

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