特別展「人体」を見る

上野の国立科学博物館で始まった「人体」展の内覧会を見てきた。以前、日本各地で開催された「人体の不思議展」は、本物の人体を使った標本の林立に気絶する女性客が出たりして見世物興行的な性格が強かったが、こちらはもっと学術的な内容でお堅い雰囲気。もちろん人間の本物の臓器標本も出ていたが、ホルマリン漬けなのでビックリさせられることもない。それでも生の標本だから見たくない人にはスルー出来るよう、臓器の展示ブースは壁の裏側に隠してあり、わざわざ回り込んで見に行かないと目に入らない配慮がしてあった。

へぇーっと思ったのは循環器のブースで見た人間の血液量が案外少ないということ。フラスコ5本が並べられ、4本には赤い液体1リッター、残り1本に600㏄が入っていた。合計で4.6リーター(60キロの体重の場合)。ミネラルウォーターのペットボトル2本分+600㏄だ。隣にシーラカンスの血液量(4リッター)が展示してあって、人間とシーラカンスがほぼ同量とは意外。他にもいろんな動物の血液量がわかるよう、同サイズのフラスコを並べて見せていた。比較すると一目瞭然の展示はなかなか良い。心臓の標本を並べたコーナーではハツカネズミの小豆粒ほどの心臓に見入ってしまった。心拍数は1分間に600〜700回という。一方アジアゾウは1分間で20回。ハツカネズミの寿命は2〜3年、アジアゾウは70年。生きている間に心臓が拍動する回数はほぼ同じらしい。

消化器の展示ではキリンの巨大な胃袋に圧倒された。大人の人間がかがめば入ってしまいそうなサイズなのだ。脳の展示コーナーにはアインシュタインの脳の一部をスライスした標本とか解剖直後の彼の脳の写真とかもあった。

展示場のあちこちに分散する形で、レオナルド・ダ・ヴィンチの解剖手稿(ウィンザー城コレクション)が何枚か展示されていた。レオナルド作品が出ていいるとは予想外でビックリ。そういっては何だが、レオナルドのコーナーだけ別世界。標本類が並んでいる会場の無粋さに比べると、掃き溜めに鶴の趣。紙の裏表にびっしりと記入された鏡文字、解剖図の筆致の見事なことといったら。いつもの精緻な描写にはため息が出る。セピア色の筆跡を見ていると繊細で几帳面だった作者の性格がよくわかる。保存対策でレオナルドコーナーの照明は薄暗く、作品が小さいこともあって、ちらっと眺めて通り過ぎてゆくお客さんが多かった。美術品の展示はこの企画の主旨とは少々違うから、興味の対象外の人がいるのかもしれない。展覧会のコンセプトを考えると、レオナルドの素描をPRの前面に出すわけにもいかないだろうが、おまけにしては豪華過ぎる。人類の至宝なのに勿体ないことである。




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