スギ花粉の産地に突入

今日は晴天で奥多摩の山は舞飛ぶスギ花粉で白っぽく霞んでいたらしい。ティッシュの箱が急速に空になってゆく今日この頃、江戸時代以降の櫛を調査する必要が生じ、奥多摩にある澤乃井櫛かんざし美術館まで行ってきた。
多摩川の流れはあのあたりではまことに清らかで、渓流沿いの崖の上に張り出す形で建てられた小ぶりな美術館は、地元の造り酒屋「澤乃井」の経営という。個人コレクターが集めた江戸時代から昭和までの櫛、かんざし、印籠、着物、茶席で使う菓子箸など、装身具を中心とする3000点を買収して美術館をオープンさせたのが20年前。その後も買い続け、収蔵品は今や5000点に増えたという。常設展示室は3部屋あり、かなりの分量の櫛、かんざし、こうがいなどがぎっしりと並んでいた。観光客用に多めに出す方針らしいが、過ぎたるは及ばざるがごとし。似たような作品が大量に並んでいるとありがたみが薄れてくる。展示にはもう一工夫が欲しいところ。

尾形光琳酒井抱一など琳派の名匠がデザインした櫛はさすがに洗練されていた。北斎の浮世絵を櫛に取り入れたものなどは親しみやすく、江戸時代の櫛のデザインは、どれも凝っていて面白いものが多い。幕末から明治になると急に小型化し、装飾はパターン化が目立って地味な存在になってしまう。武家の奥方のつつましさの反映らしい。大正になるとアール・デコ調のデザインの導入があったりして、江戸的な古き良き時代のスタイルから決別し、一気にリニューアルする。黒地にアワビの貝殻を象嵌した螺鈿コントラストが鮮やかで、青白い輝きが随分と新鮮に見えた。その後、セルロイド製のキッチュな雰囲気の櫛が出てきたりして、昭和の櫛もなかなかに面白かった。櫛はサイズがある程度限定されている。限られた造形スペースに多種多様な趣向を凝らしてきた歴史をたどると、それぞれの時代背景が浮かんでくるから興味深い。

光琳

明治

大正

昭和



帰りに近所にある河合玉堂美術館にも立ち寄った(ここも澤乃井の関係者が経営している)。他に客はいなくて貸し切り状態だった。時期に合わせて紅白梅を金地に描いた六曲一双の屏風が出ていた。梅というと尾形光琳の名作を連想してしまう。玉堂さんの梅は光琳みたいなデコラティブな意匠性よりも、雄渾な気風にあふれた筆致の伸びやかさに独自の境地を示していた。白梅を右手前、紅梅を左奥に配し、白梅の枝が左に伸びて紅梅の幹にちょっと被さり前景となる構図。さりげない重ねを効果的に使った遠近表現は秀逸。


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