ポーラ美術館「印象派、記憶への旅」展を見る

ポーラ美術館の企画展を山田五郎氏が案内役を務める美術番組が取り上げていた。放送翌日、さっそく箱根に出かけて見てきた。小田原方面から仙石原に向かう道路は箱根湯本あたりは新緑がきれいで、山の上の方には満開の山桜も点在していた。宮城野の川べりのソメイヨシノはかなり散ってしまいスカスカ状態。今年は鳥害で花芽が食べられてしまったそうだ。同じ場所に植えられた枝垂れ桜は満開で、道路際のフェンスを越えて張り出すピンクの艶やかさが凄かった。仙石原に近づくと標高が上がり、周囲の景色はどんどん季節を遡って冬景色に逆戻りする。コブシや馬酔木の白い花が枯れた森の中で目立っていた。

 

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宮城野の枝垂れ桜

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 「印象派、記憶への旅」展は、ひろしま美術館との共同開催だそうで、双方の絵画コレクションを一か所に集めて並べて見せる趣向。それだけといってしまったら身も蓋もないけれど、実態はそういうこと。展示の中身はコローやドラクロワなどから、ピカソ、ブラック、マティスまで網羅している。印象派の前後がかなり多く、全部で73作品のうち印象派のボリュームは20点ぐらいと控えめである。保険評価額を計算すれば控えめどころか、たいした金額になるが、それはお客さんには関係ない話。印象派展と思って期待して行くとオヤオヤとなるかもしれない。ポーラの営業サイドは、水戸黄門の印籠みたいな集客力を持つ「印象派展」のタイトルが欲しかったのだろう。これまでの展示で繰り返し見せて目垢が付いた作品が多いから、何度か来ている人はひろしま美術館の作品に新味を感じる。

 

展示構成は学芸員があれやこれやと勉強して、こんな風にまとめましたというレポートを拝見するような雰囲気だった。5章に分けていろいろ解説を付けていたが、印象派関連の本を読めば書いてあるような内容だから、新しい切り口を紹介する意欲はあまり感じない。個々の作品から共通要素をピックアップし、似た者同士でまとめる手法は、類似点を指摘するのは簡単だし、お客さんにもわかりやすい。しかし、同じ印象派でも作家それぞれの持ち味には相違点があり、それが個性になっているわけで、どこがどう違い、その違いは何に由来するとか、違いが意味するところを解析した方が手間はかかるが、より興味深い展覧会になっただろう。

 

①           世界の広がり:好奇心とノスタルジー 

②           都市への視線:パノラマとポートレート

③           風景のなかのかたち:空間と反映 

④           風景をみたす光:色彩と詩情 

⑤           記憶への旅:ゴッホセザンヌマティス

 

 ところどころに所蔵品の文献調査や最新の光学調査の成果を発表するコーナーを設けていた。この手の調査は作品の戸籍作りのような作業で、所蔵者にとっては意味のある研究といえる。とはいえ作品の本質や作家の芸術性を深く掘り下げて考えるための手がかりになる情報ではない。何年に描かれたとか、どこで描かれたとか、誰が持っていたかとかの調査は、マニアックであるがゆえに一般の愛好家にとっては専門的に過ぎ、どうでもいいことに思えるかもしれない。展示が一方通行の研究発表会みたいになってくる危険性がある。とはいうものの広島まで行かないと拝見出来ないモネやマルケの作品と出会えたのはうれしかった。

 

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ゴッホの作品は額縁を外してカンバスの裏側に付着した絵具の跡を見せていた。

 

 

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ひろしま美術館のモネ

 

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ひろしま美術館のマルケ

 

展覧会は第1会場と第2会場に分かれていて、1フロア下がった場所にある第2会場では、いつのまにか企画展が終わり常設展示に切り替わっていた。常設にも似たような作品が並んでいるため、どこが区切りなのかよくわからない。展覧会の企画自体、印象派を売りにするポーラ美術館の常設展と大差ない内容だから仕方ないが、起承転結が曖昧な展示を見ていると竜頭蛇尾という言葉が浮かんでくる。

 

一番下のフロアにある他の展示室では、常設的な展示として明治以降の日本の洋画とガレ、ドームらのアール・ヌーヴォーのガラスの展示をやっていた。【ガラス工芸名作選~花ひらく異国趣味】と題したポーラ美術館収蔵ガラス展は、「19世紀のオリエンタリスム(東方趣味)やジャポニスム(日本趣味)が反映された名品をご紹介します」と入口のパネルに書いてあった。中に入ればネオ・ロココアール・ヌーヴォーなど異国趣味と直接関係しない作品がずらりと並ぶ。ポーラ所蔵の中国や日本の古陶磁も少し混ぜてあり、持っているものを何となく置いたようで、展示タイトルと中身が不一致なのは羊頭狗肉という言葉を連想する。ポーラ美術館は時々訪れ贔屓にしている美術館だが、開館して17年目に入り、タガが緩んできたのだろうか。ラフというかルーズというか、詰めの甘い展示を見て残念に思った。一方、レストランのメニューは質が向上していて、盛り付けの美しさ、味付けも上々で大変結構でした。

 

 

 

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