「あいちトリエンナーレ」が炎上

 名古屋で開催されている「あいちトリエンナーレ」が注目を集めている(トリエンナーレとは、3年に1回開かれるの意味)。2日目に河村たかし名古屋市長が見に来て、「どう考えても日本人の、国民の心を踏みにじるもの。いかんと思う。県知事に撤去を要請したい」と発言したニュースが流れてから、がぜん注目が集まった「少女像」。

 

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文化庁補助金が出ている展示らしく、報道によると菅官房長官が芸術祭が国の補助事業として採択されていることから、事実関係を精査し、補助金を交付するかどうか慎重に検討する考えを示したという。

 

なんと、まあ・・・!

 

憲法で保障された表現の自由は守られるべき」と発言するのが相応しい対応だろうに。政府首脳が炎上に油を注いでどうする。そういう事を言ってるから、お口にハイヒールを突っ込まれるのだ(詳細は後述)。

 

これに対して、トリエンナーレの芸術監督を務める津田大介氏が2日夕方会見を開き「行政が展覧会の内容について隅から隅まで口を出し、表現を認める認めないを決めようとするのは、憲法21条の『検閲』に当たる。多くの人が不快になる表現があることは分かっているが、これらの作品が公の美術館から撤去されてきたという事実が議論になればいいと思っている」と述べたという。

 

企画展のタイトルは「表現の不自由」。展示不可にされた作品を集めて一堂に見せるとは、意表を突く問題提起の仕方で挑発的だ。このぐらいの仕掛けがあった方が人々の興味を引くし、実際そうなった。現代美術展でこの長蛇の列は凄い。

 

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そもそも、戦争の惨禍とか戦争がもたらす不幸をテーマにした作品が 「快適」なはずはない。戦争関連の作品を見るのは、人によっては辛いかもしれないが、楽しさを提供するだけがアートじゃない。嫌ならスルーすればいいだけ。自分が気に入らないからといって、撤去を要求するのは筋違いである。ネットで炎上させている人たちが、補助金支出の妥当性に言及し、作品が提示する問題をすり替え、矮小化させているのも感心しない。税金は時の権力者が勝手気ままに使っていいポケットマネーではない。

 

一方、この騒動に混ざってネット上で拡散したのが、安倍首相と菅官房長官と見られる人物の口をハイヒールで踏む作品が出品されているとの情報。

 

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現代美術作家の竹川宣彰氏による作品『Eat this sushi, you piece of shit』だそうだが、実際はトリエンナーレに展示されてない。展覧会に存在しない作品まで動員して炎上を煽るとは姑息に過ぎよう。

 

トリエンナーレ実行委は2日、記者会見を開き、「安倍首相や菅官房長官を侮辱する作品の展示」は「誤報」とする公式見解を発表したそうだ。仮に政府首脳を揶揄するような作品があったとしても、問題には値しない。権力者への風刺が堂々と公開され、その存在を否定しない社会は健全な証拠といえる。多様性を認める寛容さを失う方が恐ろしいのだ。

 

アートの展覧会に賛否両論は付きものである。賛否が五分五分になれば、その企画は当たり。賛成も反対もない無反応の場合は、つまらない展覧会で失敗といえる。しかし、芸術祭の事務局に抗議の電話やメールが殺到。中にはテロ予告や脅迫もあり、圧力に屈する形で展示は3日間で中止になったという。市長、官房長官、右翼の街宣車ネトウヨらの連携により、「表現の不自由」が完結したとは皮肉である。

 

大村知事は会見で「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」とした脅迫FAXや、県職員個人への誹謗中傷が相次いでいることを挙げ、

 

「こういうことがあったと、多くの国民の皆様に感じていただければいいんじゃないかと私は思っています。私が威勢のいいことをいうことよりも、こういう事象があったということを、多くの方に知っていただくということではないかと思います」

 

と締めくくったそうだ。知事と市長の対応のギャップが凄いが、関わった政治家は鼎の軽重が問われた自覚があるのだろうか? 

  

 「ふだん隠蔽されている社会の暗部を可視化するのはすぐれて批評的な行為です。今回の愛知の出来事で、日本の暗部が深くかつ広範囲に可視化されました。嫌な話ですけれど、日本の暗部がこうして白日の下に晒されて、僕たちの住んでいる社会の実相を開示されたのは批評の手柄だと思います」。(内田樹

 

 【付記】

 5日の報道では問題の作品が置かれた展示室のみ閉鎖。作品は仕切り壁の向こうにそのまま置いてあるという。

 

 8日未明の警察の発表によると、慰安婦を表現した少女像について「大至急撤去しろや、さもなくば、うちらネットワーク民がガソリン携行缶持って館へおじゃますんで」などと記した文書をファクスで送った犯人が逮捕された。愛知県在住の会社員の男(59歳)とのこと。コンビニからファックスを送れば身元が隠せると考えた還暦間際の男は、店舗の防犯カメラや近隣の防犯カメラによって、自分の姿が記録されている自覚がなかったようだ。

 

 

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