弦楽器フェアに行ってきた

1日から科学技術館で始まった弦楽器フェア、さっそく初日に行ってきた。仙台で弦楽器を作っている畏友の伊東三太郎と1年ぶりに再会。彼の新作ヴァイオリンとチェロは例年のようにとろけるような柔らかい音を出していた。50年後にはもっと締まった鳴り方になりそうだが、見届けるのは無理。地下にあるホールでのプロ奏者による演奏会でも彼の楽器が使われた。今年のヴァイオリニストは癖の強い弾き方をする人で、どの楽器を使っても「ベター」とした彼女好みの音になっていた。制作者ごとの楽器の音の違いは、それほど大きくは感じられなかった。

展示場内に置いてある新作楽器(ヴァイオリンとチェロ)をいくつか弾いたが、黒澤楽器のブースにあったフランチェスコ・ビソロッティのチェロ(2013年)は、実に軽やかに鳴る楽器で、持った感じも軽く、スルスルと音が出てくる優れものだった。店員さんのセールストークによると、最近作者が亡くなったので値段が高騰する見込み。今は1000万だが将来は3倍ぐらいになるから早く買った方がいいと。ふ~ん。レナート・スコラヴェッツァも亡くなったそうだ。イタリアの大家が次々に鬼籍に入ってゆく。

私が持っているドイツのレオンハルトのチェロの最近作も試してみた。私の楽器(1996年)よりも、見栄えも鳴りっぷりもよろしかった。スクロールなどは全く造形が違う。分業による制作方法を取っている工房だから、別人の作なのだろう。この時、試奏用に借りたシャルル・バザンの弓(200万)はチョコレートブラウンの竿が細身でしなやか、腰がしっかりしていて、芯の強さと適度なずしりとした重みがあるいい弓だった。知人が持っている同じ作者のヴァイオリン弓と同一キャラなのを確認した。

島村楽器のブースでシュテファン=ペーター・グライナーを発見!さっそく弾かせてもらった(お値段は1400万超。新作とは思えない水準)。うわさに聞くスパー新作の実力には畏れ入った。オールド仕上げのデルジェスモデルで、E線の音のまろやかさと密度感はとても新作とは思えなかった。近所のブースで弾いたファニオラ(900万円台)といい勝負。新作だから健康状態はいいし、音量もある。音色はマイルドで刺激的な要素は皆無。テツラフみたいなソリストがレコーディングにステージにと活用する理由がわかった。
 

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今回もシメオネが来ていたモラッシ・ファミリーのブースにはシメオネの子供の楽器が展示されていた。モラッシの孫である。私が持っている1983年のGBMの相場を聞いたら、「よい投資をなさいました。お大事に」だって。
 
この頃は消耗品を売るブースが減ってしまって残念なことだが、最近注目されている羊羹みたいな松脂Leatherwood Bespoke Rosinのメーカーが出展していた。業者向けの卸値が表示されていたので、日本の店頭価格は仕入れ値の5倍前後とわかった。
 

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18時20分から鑑定家のエリック・ブロットと、ヒルで働いていたフロリアンレオンハルトの講演会があった。ブロット氏の話はデンドロクロノロジーCTスキャン、UV撮影などの技術的な説明がメイン。講演会もそれなりによかったが、マツオ商会のブースにはブロットのコレクション(ポッジ、ファニオラ、カピキオーニ、ビジャッキ、アントニアッジ、ペドラツィーニなどのモダンイタリー)が展示されていた。大盤振る舞いのサービスではなかろうか。
 

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知人が撮影したブロットのコレクション
 
 
レオンハルト氏は20時間も飛行機に乗って羽田から科学技術館に直行してきたそうで、時差ボケのご様子。1900年ごろにロンドンで作られたデルジェスのコピー楽器に18世紀の作家のラベルが貼ってあった件の鑑定プロセスを写真を交えて説明していた。ニスの保存状態がいいわりに、表板のエッジの摩耗が多いのは不自然とか、板についた小傷の色が一様に黒いとか、パフリングに黒檀が使われているのは18世紀のクレモナ風ではないとか・・・素人の私が見てもデルジェス・モデルなのはわかったけれど、真贋の鑑定には2週間程度かかるそうだ。
 
最後に質疑応答があり会場内のお客さんから流暢な英語で、ヴァイオリンの鑑定作業にAIを導入する可能性の有無についての質問があった。
 
そもそもAIを導入する場合、コンピューターに誰がデータを入力するのだろう?ヴァイオリンの一流鑑定家は世界中で5~6人しかいないという。だから彼らが手掛ける高額楽器の鑑定書の発行料は、それなりの金額になる。飯の種である貴重なデータ(楽器の細部を覚え書風に描きためたスケッチなどもある)や経験を機械に預け、鑑定作業をAIに代替させるプランに喜んで協力する人がいるのだろうか?  講演会は20時20分に終了。