江戸東京博物館「浮世絵」展を見る

2日から江戸東京博物館で始まった浮世絵展を見てきた。土曜の午後4時過ぎというのに、凄い人出だった(土曜は20時まで開館している)。守衛の話では1日に5000人も来ているという。芋を洗うような混雑だったが、会場内は浮世絵の有名どころがずらりと並んで、なかなかの壮観。

歌麿のエレガンス、写楽の洒脱、北斎の奇想、広重の詩情・・・これら4人の作品は、さすがに突出した出来映えだった。

なかでも、広重の名所江戸百景 「大はしあたけの夕立」は、本などではよく見ていたが、実物をマジマジと間近に観察したのは初めてだったかも。

降り注ぐ雨を黒い線状で表現する手法は浮世絵の独壇場で、当時の印象派をはじめとする欧米の画家たちを驚嘆させた話は有名である(ゴッホはこの作品を油絵で模写している)。

私が驚いたのは、そういう絵画的な着想の面白さというより、それが木版で刷られた印刷物である点。

幾重にも引かれた雨の線は細いところでは10分の1ミリ程度だっただろうか。髪の毛よりはるかに細い線が、それこそ一直線に、定規で引いたようにまっすぐに伸びている。しかも、線の束は微妙に角度を変えながら互いに交差して画面を縦断している。

木版画(凸版)であんな線を擦れるのだろうか?エッチング(銅版画)のような凹版なら話は別だが。ミクロン単位の細線を木版に掘るのはえらいことだ。とくに交錯している箇所は。しかも、水溶性の顔料で印刷しているから、そんな細い線の版木は、吸水した木材がふやけて、じきに使えなくなってしまう気もする(版を複数作ったのだろうか?)。

あの雨の線は、どうやって刷ったのやら??

それを考え出したら、もう頭は飽和状態。会場内の他の作品を見る気が失せてしまった。

「大はしあたけの夕立」のキャプションには歌川広重の名所江戸百景の代表作と書いてあった。確かに、刷りものの歴史のなかで、特筆すべき名人芸の極致を示す作品に思われた。浮世絵版画は絵画と工芸の協業の粋といえるが、特に「大はし」は凄い。

会場を出たところにあったミュージアムショップで見た最近の復刻版(一応、江戸時代と同じ木版技術で復刻)での雨の線は、鈍くて全然緊張感が足りなかった。


画像は拾いもの(いつの刷りかは不明)。




      ゴッホによる模写



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