チェロ弓のチップを交換した。

100年ほど前のフランス製チェロ弓のチップ(フェイスプレート)が少し剥離してきたため、小田原のアトリエカマタに修理を依頼した。小田原に工場があるアルシェで弓を製作していた鎌田さんが独立して構えた弓専門工房である。5月に持ち込んでから1ヶ月ちょっとで修理完了の連絡が入り、6月30日に引き取ってきた。「急がなくていいです」とお伝えしたのでゆっくりやっていただいた。

 

剥がれたチップは象牙製だった。今回も同じ象牙(マンモスの象牙)で交換してもらった。チップは素材によって価格が違う。プラスティックだと6100円、イミテーション象牙や骨材では8500円、マンモス象牙で12800円。

 

ついでにヘッド周りのニスのムラも手当してくれていた。この弓は2020年に川崎市内にある弓専門工房で毛替え、反りの調整、ラッピングの巻き直しをしてもらった。その際にヘッドの下半分だけニスを新たに塗った状態で返却された。様子が変なので自宅でブラックライトを照射したらニスを後補した部分だけ青紫色に発光した。いじったことは明白。なぜ、そういうニスの塗り方をしたのかは不明。ヘッドの上半部のニスは古いまま、下半分はツルピカ状態で見栄えが変だった。そのことを鎌田さんにお話ししていたら、今回、中途半端に塗られたニスを落とし、ヘッド全体のニスのムラを消してくださっていた。音には関係ないとはいえ、意味不明なニスの塗り方は気になる。チップの交換だけでニスの手当てまでは依頼してなかったが、無料サービスでやっていただいて嬉しかった。鎌田さんはちょっとした調整なら気を利かしてやってくださるのでありがたい。

 

修理前の剥がれかかったチップは経年で先端が摩滅していた。今回新たにつけたチップの先端はきれいに反り返っている。わずかな違いとはいえ、弓全体の見栄えがぐっと向上した。

長い赤線の上は古いニス、下半分は新しいニスが塗ってあった。矢印の箇所でチップが剥がれていた。

隙間が見える。

修理後

反対側(修理前)先端が摩滅して丸くなっていた。

修理後

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BBO(ベートーヴェン ブラームス オーケストラ)

4月30日にベートーヴェンブラームス に特化したアマオケの5回目の演奏会を聞いてきた。毎回、それぞれの作曲家の交響曲を1曲ずつセットで演奏している団体である。会場は横浜市の南区役所の敷地に併設された公会堂。このオケの演奏を聞くのは今度で3回目になる。最初の頃はお客さんもまばらで客席は空席が目立っていたが、今回は8割ぐらいの入りだった。客席は前後左右が空席になっている場所を選んで座った。お客さんの大半はマスク着用。オケのメンバーでマスクをしていたのは3名ぐらいだった。

今回はベートーヴェンの「エグモント序曲」と交響曲第6番「田園」とブラームス交響曲第3番。指揮者は今風の快速テンポで音楽を進める。ベートーヴェンはちょっと粗さがある演奏になっていた。これは毎回そうなので意図的にやっているのだろう。

ベートーヴェンの演奏スタイルはこの半世紀の間にだいぶ変わった。時代を刷新する音楽を作り続けた作曲家だから、彼の作品には刺激的な棘が節々にある。かつては棘をオブラートで包んで円満に演奏したものだが(ワルターベームの「田園」)、今はベートーヴェンの革新性や無骨さなどをストレートに見せる時代となった。ギザギザした演奏スタイルに対する違和感も減って、のどかな田園風景というより、畑の中に新幹線や高速道路が通っていて、車窓から田畑を見ているような感じがした。

ブラームスの3番は、指揮者のサクサクと進めるテンポがいい方向に効いて、スタイリッシュで格好良い演奏になっていた。往年の巨匠風のゆったりしたテンポで3番をやると、ちょっと冗長気味でもたれることがあるけれど、今回は最後まで目を離させない推進力があり上々の出来だった。この楽団の初期の頃の演奏と比べると「どうしちゃったの?」とビックリするほどの完成度だった。定期演奏会も5度目ともなると錬成度が高まってくるのだろう。アンコールにベートーヴェン交響曲第7番の4楽章を熱演したのも意外なサービスで、客席は大いに盛り上がっていた(7番は2018年に開かれた最初の定期演奏会でやった曲)。

 

メンバー表を見たらヴァイオリンは14人中エキストラが5人、ビオラは5人中2人がトラ。問題はチェロで団員は1名だけ、残り4名がトラ、コントラバスは3人ともトラだった。管楽器は団員が多くて演奏技術も安定していた。

正規の団員が一人しかいないチェロパートを注視していたが、最前列に座っている奏者2名の片方は時々弓が停止して固まっていた。そのとなりでバリバリ弾いているエキストラとは対照的だった(トラで来る人は弾ける人だから、時々難所でフリーズする方が団員だろう)。

毎回チェロのトップを弾いている若い男性はえらく上手で、身振りも大きくてひときわ目立っていた。プログラムに印刷されたメンバーリストの名前から調べてみたら、案の定、トラで来ているプロの方だった。他のチェロのトラさんは年配男性ばかり。背が高い彼だけがいろんな意味で突出していた。

 

コロナの流行が始まってからはコンサートホールや美術館などにはまったく近寄らないで来たけれど、そろそろ少しずつ再開しようかとも思う。だが、感染者はじわじわと増えているらしい。コロナ前にやっていたチェロアンサンブル、弦楽合奏弦楽四重奏などのグループ活動の再開はまだ未定の状態である。

 

 

 

チェロ・アンサンブル#94

2月2度目のO先生のレッスンだった。男性が体調不良でお休みしたため4名出席。欠席した人は2つの合唱団にも参加している。合唱団は狭い場所で大勢が歌うからウイルス感染などがちょっと気がかりとかの雑談。

 

今回はオッフェンバックの2重奏曲(作品49)の第6番の初練習ということで譜読みをした。ネットから無料でダウンロード可能な楽譜にはミスプリが結構ある。音の間違いやスラーのかけ忘れなどの訂正箇所が多い。それらをチェックしてから第1楽章を一対一で合奏した。ぶっつけ本番なのでフェルマータをどのくらい伸ばすかがまちまち。繰り返したらそれなりにそろうようになった。6番は随所にオッフェンバックらしいフレーズが散見されるけれど、他の5曲と比べると明るくてのびやか、開放的な雰囲気がある。残りの楽章は次回に持ち越し。

 

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チェロ・アンサンブル#93

1月に予定していた練習が悪天候で中止となったため、今日が今年最初のO先生のレッスンだった。5名全員が出席。 

昨年から継続しているオッフェンバックの2重奏曲(作品49)の第5番の初練習。とりあえず第1楽章をぶっつけ本番で合奏した。アレグロの指定があるけれど初回なのでかなりスローなテンポで弾いたので、ほぼスムーズに通った。次に生徒が一対一で合わせた。ギクシャクして流れがよくなかったチームもあったが、それはいつものこと。

第2楽章から第3楽章へと進んで弓順の確認などをし、最後に一対一で合わせて今日のレッスンは終了。5名で2名ずつ合わせると一人余る。余ったメンバーの相手はO先生がやってくださる。3楽章は私が先生と合奏させてもらえることになりラッキーだった。5番は次回に持ち越し。さらに曲集の最後の6番まで今月中に進む予定。

今日は3月並みの気温だったとはいえまだ寒い。演奏中にペグが緩んでピッチが狂う楽器が続出した。私の楽器もレッスン中にC線が緩み、帰宅してケースをあけてみたら今度はG線とD線が緩んでいた。

 

 

弦楽四重奏#12

毎月1回開催の平日弦楽四重奏団の練習があった。4月4日に公開演奏する予定のハイドン「五度」の第1楽章〜第3楽章の復習を重点的にやった。

 

 第1楽章のチェロパートは、後半に出てくるヴィオラとの掛け合い箇所、半拍ずれて追いかけるところが問題で、最初はばっちり弾けたが、指導者さんから褒められた途端に意識しすぎて正確に弾けなくなってしまった。鼻歌交じりぐらいに弾いている方が正確に合わせられるというのも困ったものだ。第3楽章メヌエットは指導者さん(ファーストヴァイオリン)がお好きな楽章。シンプルなカノン形式で繰り返しが多い。セカンドとチェロは、いくつもあるリピート記号を見落として迷ってしまった。。 

 

最後に第4楽章をざっと通してみた。ヴィヴァーチェ・アッサイの指定があるので相当な速さで弾くことになるが、初回なのでスローテンポでやってみた。チェロパートは移弦しながら弾く分散和音が何度か出てくる。終楽章はまだ人前で弾くレベルではないから、4月4日の演奏会では第三楽章までを披露することになった。

 

セカンドヴァイオリンの女性がLeather Wood Bespoke Rosin 「レザーウッド べスポーク松脂」を持ってこられたのでちょっと試させてもらった。オーストラリア製の高額品である(昨年の弦楽器フェアにこの松脂のメーカーの人が来ていて、業者に卸す価格はかなり安いことを知った)。

 

缶ベル(ややくすんだ音が出るレオン・ベルナルデル)を若返らせて、しっとり感と瑞々しさを加えたような雰囲気の松脂だった。製造後、100年が経過している缶ベルは枯れた乾いた音が出るけれど、レザーウッドの方は潤いがあって水気が多い感じ。きめが細かく吸い付きがいいので音量が出やすく、そういうタイプに多いざらざらする粗さもない。評判通りの良い松脂だと思う。革に巻いてあるだけで缶に入ってないから松脂に混入してある成分の揮発のスピードが気になる。初期性能はがいつまで持つだろう?

 

Leather Wood Bespoke Rosinに近似した性能の松脂としては日本製の「コハク」がある。長野県でおじいさんが一人で製造しているという松脂。しっとりとした潤いのある音が出て音量も十分。粗さのない上品な音が魅力だったが製造中止。

 

 

城下町のアンサンブル#7

先週予定されていたチェロアンサンブルの練習は悪天候のため中止。その結果、今年の音楽活動は今日からスタートとなった。毎月1回開催されている城下町のアンサンブルの定例練習に出席した。午前9時スタート。ヴァイオリン5名、チェロ、コントラバス各1名、クラリネット1名が参加。ヴィオラ1名は欠席。
練習曲は以下の5曲

バッハ「ドッペルコンチェルト」第3楽章
バッハ「主よ人の望みの喜びよ」
「ラデッキー行進曲」
シベリウス「アンダンテフェスティーボ」
「ユーレイズミーアップ」

このアンサンブルはファーストヴァイオリンとセカンドヴァイオリンの担当が曲によって入れ替わる。私は「ラデッキー行進曲」「ユーレイズミーアップ」の2曲でセカンドを弾いた。2名でやっているセカンドのもう一人、初心者のメンバーさんの音はほぼ聞こえないから、同じく2名いるファーストとのバランスがいまひとつよくわからなかった。

他の曲ではファーストを担当したが、ドッペルのトゥッティは突出しないように、しかし埋もれ過ぎないように加減しながら弾いた。ドッペルでは2名がソロに回っているため、トゥッティはレイト2名と私の合計3名で弾いている。通奏低音のチェロのリズムが時々揺れるのはいずれ改善されるだろうが、そこにクラリネットが絡んでくると、なかなか大変なことに。

この団体は弦楽器にクラリネットが加わる変則的な構成になっている(以前はフルート奏者も在籍した)。そのため、どの曲もクラリネットが参加できるよう編曲されている。多くはヴィオラパートを補完する役割をクラリネットに与えているが、バッハの曲にクラリネットが混ざるとさすがに違和感を感じる。ドッペルの伴奏でクラリネットが吹き始めると音量があるのでソリスト二人より目立つのだ。5月に予定されている演奏会でこれを聞かされる聴衆はどんな顔をするのだろう。

 

 

ベートーヴェンは凄い! 全交響曲連続演奏会2019

2017年、2018年に続いて大晦日東京文化会館で行われるベートーヴェン交響曲演奏会を聞きに行った。このイベントは2003年に始まり、今回が17回目となる。31日午後1時に交響曲第1番の演奏が始まり、途中で5回の長めの休憩があって、最後の第9が終わるのは23時55分ぐらい。NHK交響楽団有志他による岩城宏之メモリアル・オーケストラの演奏 。コンサートマスター篠崎史紀さん。第1ヴァイオリンは7プルト、第2が6プルトヴィオラは5プルト、チェロは4プルトコントラバスは7名、管楽器は2管編成で、最後の第九のみ4管に増員。第9のコーラスは武蔵野合唱団が出演。指揮者は例年同様に小林研一郎さん(12回目、79歳)。

 

晦日限定臨時編成のオーケストラは、NHK交響楽団の奏者が中心になっているけれど、弦楽器はN響とは違う音がする。腰が強く粘りのある気合が入った音を聴かせる。N響はキレイな上澄みだけを掬い取ったような音を出すが、こちらは多少の灰汁も気にせず、ガッツのある芯の強さを見せつけるところがある。一期一会のコンサートゆえかもしれない(毎年夏に甲子園で繰り広げられる高校野球のひたむきさとプロ野球の違いみたいなものかも)。

 

会場に迷惑なブラボー屋が数人いるのは例年通り。どの曲も終わるや否や間髪を入れずに絶叫する。6番の終楽章などはしんみり終わるのに、大声で叫ぶから音楽の余韻もへったくれもない。たまたますぐそばの席に一人いたので叫んでいる顔を見たら、カッと見開いた目がらんらんと輝き、口元には薄ら笑い。青白い顔の青年は絶叫目的でコンサート会場に来るのだろうか。周囲の女性客らは耳孔に指を突っ込んで大声を我慢していた。

 

小林さんは1980年ぐらいまで主流だったコテコテの重厚長大スタイルでベートーヴェンをやる。ああいうベートーヴェン演奏は今後も残っていくのだろうか?もはや絶滅危惧種的な貴重な存在かもしれない。交響曲第1番と第2番は曲の性格と指揮者の大柄なスタイルがチグハグで居心地が悪かったが、第3番「英雄」では違和感が消えた。全9曲の中では「英雄」が最も指揮者との相性がいいようだ。オーケストラも熱演で応え、今回のコンサートの白眉といえる出来。長大な音楽があっという間に終わってしまった。

 

第2番の演奏が終わった後で、主催者の三枝成彰さんとホルン奏者が出てきて、ホルンという楽器の特性とか構造についてのレクチャーをしていた。ゴムホースの先におもちゃのラッパをつけたものを引っ張り出して、全長4メートル以上にもなるホルンの管の長さを実際に見せていた(ちょっと吹いた)。ベートーヴェンの時代のナチュラルホルンのレプリカと現代のフレンチホルンの違いについてとか、ゲシュトップという音を割る奏法の実演とか、なかなか興味深い話だった。

 

三枝さんのレクチャーは4番の後にもあり、ヘーゲルが説いた芸術に関する話(同じものを作り続けるのが職人、毎回違うものを作るのがアーチスト。これって3年連続で同じ内容の話題なのだ)、西洋音楽史で最も偉大な変革者はベートーヴェンシェーンベルク(12音技法)、ジョン・ゲージ(人間が作曲するのをやめた)の3名だとか、現代音楽は聴衆に受けては失敗作とみなされるので辛いとか、欧米では商業音楽(映画音楽の作曲とか)に手を出した作曲家はクラシックの世界には戻れないとか、愚痴っぽい話もあった。三枝さんは足元が少々危なそうな歩き方をしていた。77歳だそうだ。

 

続く第4番、第5番は終楽章まで余裕たっぷりの恰幅のいい演奏。客席はやんやの拍手喝采だったけれど、最後の第九にそなえてオーケストラが出力をセーブし、スタミナを温存しているみたいな雰囲気もあった。第6番、第7番も悠然と進む。輪郭が若干甘いというか緩いというか、あの人たちならもっとできるだろうに・・・第8番になってようやくキリリと締まった演奏を聞かせてくれた。4つの楽章を休みなくアタッカで演奏し緊迫感を維持していた。

 

8番が終了した直後、ピアニストの横山幸雄さんがリスト編曲の第九の終楽章からトルコマーチ以降を演奏してくれた。ピアノ1台で第九の声楽付きオーケストラを再現するのはえらく骨が折れる仕事だったそうだ。苦労が多いわりには報われない。ご苦労様です。

 

最後の第九の演奏は22時40分に開始。終楽章の冒頭でトランペットがファンファーレの最後の音を外す痛恨のミスが発生したが、これ以外は全9曲、オーケストラに目立つミスがなかったのは立派。藤村俊介さんが率いるチェロパートが随所で健闘していたのも頼もしかった。第九では例年通り武蔵野合唱団が立派なコーラスを聞かせていた。ソリストはソプラノとテノールが精一杯、アルトとバスは余力を感じさせる歌唱だった。指揮者は時々、個性的な演出(こってりと音を重ねるとか、妙なところで伸ばす、あるいは空白を作る、タメを入れるなど)を加えて、ベートーヴェンの音楽に小林流の爪痕を残していたが、全般に予定調和的な円満な音楽が進行し安定していた。3年連続で聞いていると手の内がわかってくるから、スリリングな体験は期待できないけれど、2020年の大晦日にも聞きに行くことになるのだろう。