ラファエロ展

春一番の強風が吹く最中、西洋美術館の「ラファエロ展」内覧会に行った。花粉症の人間としては、風が強い日の外出は控えたいものだが、ラファエロと聞いたら、じっとしてはいられない。前回見た「ラファエロ展」はリュクサンブール美術館での展示(2002年)。私にとっては、久しぶりの円満の巨匠との出会いである。

マスクの中にティッシュも重ねて、ちょっと息苦しいのを我慢して出かけた。西洋美術館の展示室内なら空調もしっかりしているから大丈夫かと思いマスクを外したら、たちまち目はショボショボ、鼻はグズグス。急いでマスクを付け直しての鑑賞となった。

展示数はかなりのもの。いい作品が集まっているが小品が多い。この画家の大作といえばバチカンの壁画。あれは移動不可だからしょうがない(一部、模写の替展示があった)。その代わりといっては何だが、ラファエロが原画を描いたタペストリーが来ていた(4.5m×3.7m)。織物ながら圧倒される大きさで、ルネサンス時代の壮大な気風が伝わってくる。

しかし、小品のタブローでもラファエロラファエロ。品格の高さはさすがだった。特に「エゼキエルの幻視」は(コピーとの真贋論争があるらしいが)、テーマも含めて神がかり的な存在感を放っていた。ポスターに使われている「大公の聖母」は、背景を後代に黒く塗りつぶしているそうだ。明朗な表情をたたえた他の作品と比べると、ほの暗く重々しい印象なのはそのため。背景の画面が傷んだので、絵の商品価値を高めるために画商がいじったらしい。お邪魔な黒色絵具層を剥離して、旧状に戻す修復はできないという。余計なことをしたものである。レオナルドの作品でも、同様の背景の塗りつぶしを受けた事例がある。18世紀〜19世紀ごろは、作品のオリジナリティの尊重など意に介さない風潮があったのかもしれない。

それはともかく、ラファエロは人気画家だったので肖像画の注文も多かったようだ。今回の展覧会にも肖像画はかなり来ている。どの絵も、モデルの貴族らが一様に不機嫌な顔つきをしている。皆さん、仏頂面(ぶっちょうずら)なのは、どうしてだろうと思った。現代人がカメラの前でにっこりするような習慣は当時はなかったとしても。 dignityの表現ということだろうか。

今、上野では都美で「エル・グレコ展」もやっている。よくぞたくさん集めたものだが、エル・グレコが描いた人物は、砂糖菓子か何かのようなとろけるような甘さ、夢見心地の表情をしているケースが多い。ラファエロが描いた人物も聖母などは優美な表情をしているが、その質と品位はだいぶ違う。風俗画的な甘美さがあるエル・グレコの人気もうなずけるものの、画格の違いは認めざるを得ない。

今年は「日本におけるイタリア年」だそうだ(これって時々やっているおなじみのイベント)。 4月に都美で「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」、9月には西洋美術館で「ミケランジェロ展」が開催される。イタリア・ルネサンスの3大巨匠の展覧会が相次いで開かれる豪勢に感謝。







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