毛替えのリベンジ

7月の終わりに毛替えをしたヴィネロンの弓毛の調子がイマイチで、やり直してもらった。都心にある工房の店主は、使用に伴って毛が伸びてくることを予想し、指板側の毛のテンションを若干強めに張った。そういう手加減は割と普通にやるらしいが、今回は片側を強く張り過ぎたため、アンバランスな状態がいつまでも解消しない。

理由は、私がヴィネロンの弓を酷使しないから。ガシガシ弾かないので、なかなか毛が伸びないのである。ヴィネロンは120年前の弓である。ご老体ゆえ、いたわる必要がある。弾くというより、柔らかく響かせる感じで使っている。そもそも毛を伸ばすためにガンガン弾くのは、本末転倒である。そんな調子で一ヶ月経ったが、相変わらず片側のテンションが高いまま。毛を強く張ると弓竿が若干横に反ってくるのも面白くない。

いつまでも状態が改善しないので、指で毛をつまんで、1本ずつ引っ張ったが、それでも左右のテンションの違いが直らない。竿に変なストレスがかかっている感じで弾きにくい。というわけで、店主に毛の状態を連絡したら、やり直してくれるという。

店主の話では、初めて毛替えを手掛ける弓は、弓の性格が呑み込めていないので、予想が狂うこともあるそうだ。デリケートな作業ゆえ、そんなこともあるのだろう。新しい毛は左右のバランスが均等で、テンションをかけても弓竿の横反りが起こらない。竿にかかっていた妙なストレスが解消し、癖のない素直な弾き心地が戻った。

今回、毛替えのついでにグリップの巻革の交換もやってもらった。牛革とトカゲ革では、牛の方が感触がソフトで指になじみやすく、トカゲは手触りが固くてドライなタッチになるという。革の厚みも牛の方が厚く、トカゲは薄いのだそうだ。工房内にはトカゲの開き(?)みたいのが壁に吊り下げてあった。日本で見るかわいいトカゲのサイズではない。体長30cmぐらいある。道であんなのと遭遇したらビビッてしまう。この他、羊の革もソフトで繊細な手触りがいいそうだが、消耗も早いらしい。

今まで巻いてあったのは、表面がスベスベの薄手の牛革だった。私は長めの太巻きが好きなので、厚手で表面にこまかいシボが入った牛革を選んだ。また、27mmの長さで巻いてあったのを、40mmにしてもらった。牛革の重量が増えた分、わずかだがバランスが手元寄りに変わってくるそうだ。変わるといっても、シリコンチューブを巻きつけていたのを外せば、大差はない程度である。

長め太巻きにしたら、持ちやすくていい感じになった。弓の調子がいいことを店主にメールしたら、返事に次のようなことが書いてあった。

「ヴィネロンの弓の性格は、良くも悪くも状態の変化にデリケートな様です。以前にその弓を使っていた人も、その様な弓の性格をご存じでいたのでしょう。力で擦り着ける様な使い方はされていなかった様に思います。弦と馬毛との接点に集中して、弦の振動を殺さず、暴れさせず、弱すぎず、そんな密着感でボウイングを整えていくと気持ち良く開放的な音色が創れると思われます。ガリガリ ゴリゴリ は合わないタイプの弓です」。






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