シューベルト「ます」 1回目のリハーサル

午前中のグループ・レッスンを終え、そのまま車で1時間ほどかかる練習会場(オケの団長のお宅のリビングルーム。グランドピアノが置いてある)に移動して、シューベルトピアノ五重奏曲「ます」の第四楽章を合わせた。 団長の家は狸が出そうな山間の鬱蒼と繁った竹林の脇にあった。こういう立地ならピアノをガンガン弾いても、ご近所からの苦情は来ないだろう。

ピアノ担当はグループ・レッスンの発表会でお世話になったことがあるT先生だった。バイオリンは遠方から電車で来られた音大卒の女性。ビオラはバイオリンからビオラに持ち替えた団長さんと、もう一人の女性が弾いていた(本番ではこの女性は出演しないらしい)。チェロはわたし。コントラバスは地元オケでバイオリンを弾いている小柄な女性。この方も本番には出ないらしい。練習時の代奏だけのようだ。

とりあえず通してみようということで弾き始めたものの、各人のテンポ感が合わないとか、入りのタイミングが揃わないとかで空中分解寸前。それでもバイオリンとチェロ・バスが踏ん張って最後まで通してしまった。ビオラは途中で落ちたような。最初はそんなものだ。

その後、テンポを落として超スローペースで音の出入りを確認した。第四楽章は主題と5つの変奏曲からなる。第1変奏と第2奏曲の間には休符があるものの、第3・第4・第5変奏曲は休みなく続いている。アタッカで突入しないといけないのだが、気分的には一息付きたくなる。しかも、第3〜第5変奏曲はチェロのアウフタクトで開始する。勝手にわたしが休みを挿入してはいけなかったのだ。特に第5変奏は、アウフタクトの8分音符一個がヘ音記号で、直ぐに苦手のテノール記号になる。思わず・・・ウムムで、さらに入りが遅れる。

すかさずバイオリンの先生からチェックが入った。アウフタクトの1音は休みなくアタッカで弾いて、テンポ・ルバートするならその直後、チェロがメロディを歌い始めてからにして下さいとのことだった。そうしないと他の楽器が合わせにくいという。肝心なのは最初の1音ということ。最初が合えば、その後は付いて行きやすくなるというお話だった。ごもっともである。

わたしはピアノ五重奏なんて弾いたことないし、そもそも、チェロで本格的な室内楽をやるのも初めて。合わせどころのポイントが分からなかったのが、だいぶ勉強になった。

この楽章はチェロが主導的になる場面がかなりある。たとえばコーダの直前、127小節のフェルマータの伸ばしはチェロに一任された。他の楽器も音を揃えて伸ばしているので、続く三十二分音符に雪崩れ込むきっかけはチェロが出すのだそうだ。責任重大である。

曲を締めくくる最後の4小節もチェロがリタルダンドの速度を決定するので責任重大。みんなに注目されながら弾かないといけないから指がもつれそうだった。

そんなことを繰り返しながら各変奏曲を順番にさらっていく内に、だんだんタイミングを合わせる呼吸が揃ってきて、2時間後には(細部は今後の課題だが)ほどよいテンポ感で通せるようになっていた。室内楽は周りの音をよく聞きながら合わせる必要がある。自分のパートだけで手一杯の状態だと、そこまでの余裕がない。わたしを含めて、今日集まったメンバーは、今後どこを重点的にさらえばいいかの練習課題がはっきりしたのは収穫だった。

参考用に使っているハーゲン四重奏団とアンドラーシュ・シフのCDから聞こえてくるソット・ヴォーチェのチェロの音をイメージして、今日はつとめて柔らかい音色で弾いてみた。練習したリビングルームはそれほど広くはないため、ピアノが鳴り始めるとビオラやチェロの音はかき消され気味だった(かき消されて助かったところは、なきにしもあらず)。本番で使うホールのステージなら、ピアノとある程度の距離は保てるから、バランスは改善出来るだろう。CDの音はマイクでひろったクロースアップされた音。実際以上に分離がよく出来ていることを改めて知った。そよぐようなソフトなチェロの音が、他の楽器の音(特にピアノ)にマスクされずに明瞭に聞こえてくるのは、それなりの仕掛けがあるわけだ。



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