今風の葬式

1月10日、58歳の若さで脳梗塞により亡くなった女子美術大学の先生のお別れ会があった。多少関わりがあった人だから東高円寺女子美キャンパスに行ってきた。「アートプロデュース表現領域」という学科の主任だったそうで、葬式セレモニーもその「アートプロデュース」に入るという説明を聞いた。ということは今日の葬式は教育実習を兼ねている。死してなお教育現場に貢献する先生も凄いが、それをやる大学も凄い。結婚式場や葬儀屋さんで美大卒業生が活躍する時代になってゆくのだ。

小さいホールが会場となっていた。祭壇はなく故人の写真パネルが一枚だけ白い壁面に掲示してあり、両側に薄布の白いスクリーンを3枚ずつ垂らしていた。写真の前の下方には白く塗った舟型模型(ボートのサイズの実物大)を置いて生花を活けていた。どこかの華道家の作品という。三途の川の渡し船だろうか。

来賓、親族の挨拶があり、故人の最後が紹介された。一卵性双生児で瓜二つのお兄さんによると正月休みに長野県南部の実家に帰省し、親族と楽しいお正月を過ごし、帰京する5日、荷物をまとめている最中に倒れた由。ヘリコプターで松本市内の信州大学病院に搬送されたが手遅れで、5日後に亡くなったという。幼児から高校生時代までを過ごした実家の部屋が最後に見た景色。正月気分の余韻に包まれて逝ったとは。あやかりたいものだ。

セレモニーの最後は散華だった。参列者がお盆に守られたカーネーションの花びらを少しずつ手にとって、船に向かって花を散らした。散華の方法は奈良の古寺ではそれなりの構えで蓮弁を投げるが、今日の参列者は両手でゴミを捨てるみたいな動作をしたり、片手でひょいと押しこんだりと、皆さんどうすればいいのか困った様子。お寺の散華は右手を肩より高くあげてすくっと伸ばし、手首のスナップを効かせて花弁をパラッと上空に向けて散らす。そうすることで滞空時間が長くなり、花は放物線を描いてハラハラと落ちてゆく。

私的には坊さんの読経とかないシンプルな葬儀はいいと思うけど、今日の演出はどこかサークル風のノリでやってる雰囲気も感じた。参列者全員に故人の名前のイニシャルをアールヌーヴォー調にアレンジしたフェルト製ワッペンを付けさせたりして。学生たちが考えた趣向なんだろね。

帰りに学内で展示されていたアートプロデュース表現領域の卒業制作を見た。部屋中に紙くずを散らかしたインスタレーションとか、既視感のある展示コーナーの隣に、故人の教育実績を紹介するパネルが並ぶ。学生を引率してヨーロッパに行ったりと随分とエネルギッシュな先生だったようだ(昨今の大学は学生を学外に連れ出すのを嫌う。事故とか何かあると困るので)。それと実家で高校卒業まで使っていた部屋を再現した展示もあった。本棚に並んだ書籍を拝見したが、海外情勢のルポとか、演劇関係とか、いろいろ雑多。興味対象の広さがしのばれる。共産圏のおみやげ(毛沢東やレーニン、スターリン銅像のミニチュアのたぐい)がいっぱい置いてあったり、ブリキの人形とか水鉄砲(?)なども混ざっていた。おもちゃ箱みたいな空間。



奈良の寺の散華


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