ミッシャ・マイスキーのコンサートを聴く

鎌倉芸術館で開催されたミッシャ・マイスキーのコンサートを聴いた。伴奏ピアニストは御嬢さんのリリー・マイスキー

プログラム前半は、ブラームス尽くし。《愛のまこと》op.3-1、《わがまどろみはいよいよ浅く》 op.105-2、チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 op.38。休憩後の後半は、シューベルトの《アルペジョーネ・ソナタ》とドビュッシーの《チェロ・ソナタ ニ短調》。

最初のブラームスでは、鼻をつまんだような詰まり気味の高音と、もやもやした中低音(ピアノの音にマスキングされがちだった)に、ちょっと驚いた。抜けの悪いくぐもった音色だった。マイスキーのチェロは1720年製のモンタニャーナだそうが、音そのものはフレンチ・チェロのイメージに近かった。そんな音で弾かれたブラームスは、シューマン的な狂気をはらんだ煮え切らない音楽みたいに聴こえた。

ところが、後半のシューベルトから楽器が鳴り出した。意図的に音色を変えたのかもしれないが、音の輪郭がすっきりして、CDで聞き馴染んでいる泣き節が全開。次のドビュッシーでは、現代音楽っぽい即物的な響きを織り交ぜた豪快な演奏となっていた。前半のブラームスとは大違いだった。

マイスキーはエンドピンを随分と長く出す人で、楽器を寝かせ気味に構えていた。またA線を弾く時は、右腕をかなり高い位置に持ってきていた。A線の時はいつも同じ角度に腕が来るし、他の弦を弾く時も、それぞれの角度に腕の位置を固定させていたので、今、どの弦を弾いているのかは、離れた場所からでもわかった。

プログラム終了後の拍手喝采にこたえて、アンコールを、なんと7曲もやってくれた。3曲目が終わったところで、これでお開きかと思ったら、またやるし、5曲目が終わったので、これで終わりかと思うと、また。アンコールだけで30分ほどかかったから、16時50分の終了予定時間は17時半までのびた。お客さんも、もうこれでおしまいと思って席を立つと、また次のアンコールが始まる。ドアの外からあわてて戻ってきたりで忙しかった。アンコールのメニューは・・・

1) カザルス: 鳥の歌
2) シチェドリン: アルベニス風に
3) ブラームス:歌曲「ひばりの歌」op.70-2
4) ショスタコーヴィチ: チェロ・ソナタ第2楽章
5) リヒャルト・シュトラウス: 歌曲「朝に」
6) ファリャ:  火祭りの踊り
7) 作曲者不詳: ロシアのロマンス

マイスキーという人は、構成的な骨太な音楽を組み上げるというより、その場その場で見えてくる景色を万感の感情をこめて歌い上げるのが得意なタイプのようだ。アンコールの小品にそういう美質がよく表れていた。リヒャルト・シュトラウスの歌曲「朝に」で聴かせたソットヴォーチェのピアニッシモの美しさ(!)あれは、忘れられない思い出になりそうだ。

演奏会が終わってロビーではCDのサイン会が始まり、長蛇の列が出来ていた。

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