軽いケースは、どうかな?

ハードケースは2本持っている。フランスのBAM社の「ニューテック」と「ハイテックスリム」。前者は4.9kg。後者は2.9kg。BAMは組み立て精度が高く、ヨットなどの船舶に使うのと同じような素材を採用しているので、軽くて断熱性能が優れている。世界中の使用人口では、このメーカーのケースが一番多いらしい。

ニューテックの4.9kgという重量は並みの重さで、楽器を収めると総重量が10kgを超えてくる。持ち上げると肩にベルトが食い込んで、ずしりと重たい。車に積んでの移動なら可能だが、これを持って電車に乗るのは遠慮したい。特に駅の階段は登りたくない。

そんなこともあって、2本目のケースを買うときは、3kg以下の最軽量クラスを考えていた。しかし、チェロケースは軽くなるほど値段が跳ね上がる。2kg台の一番軽いクラスになると、国内定価は30万を普通に超えてくる。たかがケースともいえない値段だ。

国産メーカーの東洋でも軽量モデルを生産していた。50本限定の最軽量ケース「プリューム・カーボン・スリム 2.9kg」。都心の量販楽器店に最後の1本があったので見に行った。店員さんの話では、チェロケースは重い楽器を運ぶから故障が比較的多く、国産品なら修理対応が簡単なのでおすすめだという。 どうして50本の限定生産なのか聞いたら、高いので売れなかったらしい。価格帯がBAMと重なるのも販売不調の理由だったとか。そういえば東洋は自社の直販サイトで、かなりの値引き販売をしていた。映画「おくりびと」で撮影に使われたケースと宣伝していたような気がする。

東洋の最後の1本は見栄えは非常によく、いかにも高級ケース然としていた。しかし、開いてみたら蓋のかみ合わせ部分がフニャフニャ。開閉にはコツが要る感じで、閉めるたびにこれではと考えてしまう(軽量なケースはどれもそんなものだが)。

内装はずいぶんと簡素でクッションがほとんどなく、ケースの中でチェロがエンドピンで立つ仕組みだった。常にエンドピンに楽器の重量がかかっている状態なので、ベルトが切れたり外れたりして、ケースが地上に落下した場合は、もろに楽器に衝撃が伝わってしまうだろう。クッションがない構造なのはネックで、これさえ改善されていれば買ってもいいと思う出来だった。

競合するBAMのケースは底部に装着された発砲ウレタンの座布団クッションによって面で楽器を支え、エンドピンには重量がかからない仕組みになっている。非常時には、この方が安心な構造で、東洋と見比べると楽器の保全性能で勝っている。ということで、BAMの最軽量ケースを購入することにした。海外から取り寄せれば安くなるが、個人輸入はなにかと厄介だし、壊れたら修理はこの店に持ち込めばいいのだ。

空っぽのケースをしょって電車に乗ってみたが、さすがに3kg程度なので歩行も楽だった。自宅に持ち帰り、先に購入してあったBAM「ニューテック」と見比べたら、どう見ても安い(重たい)ケースの方が全般の造りが良く、コストがたっぷりかけられている。軽量ケースはパネルを薄くしただけでなく、部品点数も減らしてあった。相対的にかなり安っぽい感じがする。

蓋は軽量ゆえにヘナヘナで、閉じるときにはケースを床に水平に寝かしてやらないとスムーズに閉じない。立てたままでは歪が出て、きちんと閉まらない。内部の補強材の組み込み密度を比べても、4.9kgのケースは井桁風にしっかり造作して頑丈にできているが、2.9kgは半円形の溝をプレス加工しただけ。

同サイズで4割(2kg)の軽量化を実現するのは大変かもしれないが、パネルの材料費や部品点数が減り、組み立ての手間も減少しているから、それなりのコストダウンになっているだろう。それで値段は2倍以上と強気の商売。メーカーにとって軽くするほど高く売れる軽量ケースは利益率がいい商品に違いない。

そもそも軽量ケースが高いのは、BAMのライバルのクロアチアのアコード社が出した2.3kgのケースが、手造りでカーボンシートを張り重ねる工程で生産したのが一因かもしれない。一枚ずつシートを張り重ねて、軽くて丈夫なパネルを作るなら、なるほど手間はかかる。効率が悪いから、高くなるのもしょうがない(総輸入元の某●●総業がよくばり過ぎという話も聞く)。

一方、BAMは発砲樹脂のプレス成型だから製造コストは重さと関係ない。それでもアコード並みの値段になるのは、重さが同じレベルだからか?

私がアコードを選ばなかったのは、工芸品みたいな造りゆえ、蓋のかみ合わせが甘くて若干隙間があるため。雨にぬれるとケース内部に浸水する可能性があるといわれている。対するBAMは蓋の気密性が高い。

いずれにせよ、美人薄命的なケースにタフネスは期待できない。ベルトを装着する金具が付けてあるパネルは薄くて簡単に壊れそうだ。その部分に負担がかからないよう扱いは慎重に、丁寧に・・そんな余計な気を遣わなくていいのは4.9kgのケースの方である。頑丈なので重いけれど気楽に使えるのは重要なメリットだと思う(そうはいっても、持ち歩く気にはならないが)。

軽量クラスは、どのメーカーも3kg以下にするため、100g単位で軽量化を競っている。買ってみて判ったことは、軽い=デリケート=ひ弱ということ。 
「強度をキープしつつ軽量化に成功しました!」なんていう宣伝文句は手品みたいなものだと思う。



手前が軽量ケース


軽量ケースの中はスカスカ


重いケースの中はしっかり補強




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