清水靖晃: テナー・サキソフォンによるバッハ無伴奏チェロ組曲を聴く。

YouTubeで知ったテナー・サキソフォンによる無伴奏チェロ組曲のCDを買った。チェロによる演奏スタイルの模倣ではなく、管楽器奏者ならではの解釈が繰り広げられている。ビックリするような騒音(汽笛のように聞こえる)を加えたり、超スローテンポで吹いたりと、バッハの楽譜から、さまざまな可能性を引き出すので、めっぽう面白い。

演奏者の清水靖晃さんは1954年生まれ。このCDは1996年と1999年に別々にリリースされたのを、2007年に2枚組セットにして再発売したもの。発売当時は評判になったらしい。その頃、まだ私はチェロとは縁が無かったので知らなかった。

録音会場は曲ごとに違う。1番はコンシビオスタジオ(東京)。むき出しのコンクリート壁を持った部屋のようだ。2番は大谷石地下採掘場跡、3番は那須野が原ハーモニーホール、4番は釜石鉱山花崗岩地下空洞、5番はイタリア、パドヴァにある巨大な離宮ヴィラ・コンタリーニの3階吹き抜けのサロン、6番は同じくパドヴァのパラッツォ・パパフォーヴァの12メートルの丸天井を備えたサロン。

いずれも残響が非常に長くて風呂場で聞いているような雰囲気がある。地下空洞での録音には、ピチャピチャと水が滴る音も入っている。重音の箇所は多重録音で処理しているらしいが、ドスの効いたハモリ方をする。2番のメヌエットでは15人のサキソフォン奏者による合奏も聴ける。大谷石地下採掘場跡には私も行ったことがある。湿っぽくて肌寒い空間で、大人数のサキソフォンアンサンブルをやったのかと思うと感心してしまう。

このCDにはバッハ作品の汎楽器的な性格をよく物語る内容があり、チェロでは開示出来ない別世界が覗ける。時には尺八を連想させる枯れた暗い音色を出したり、一転してポップな表情で歌ったりと、表現の幅の広さはたいしたものだ。私が好きなサラバンドはどの曲でも上出来で、天上界から響いてくるような妙味が漂っている。特に6番のサラバンドは、モーツアルトのグラスハーモニカのための音楽を連想させるので、驚いてしまった。

これと同様に、管楽器での演奏例がもう一つあることを知人に教えてもらった。ベルリンフィルの首席ホルン奏者だったラデク・バボラークによるもの。知人によると、サックス以上に衝撃的な演奏とのこと。早速取り寄せて聞いて見た・・・。

結果は、ホルンでこの曲をやるのは無理があるのを確認した。技術的に厳しいところが随所にあって、しばしば音楽の流れが寸断されるため、楽しめなかった。テナー・サキソフォンによる演奏は、そういう不具合を微塵も感じさせない。あらためて清水さんの凄さに脱帽である。






1番 コンシビオスタジオ



2番 大谷石地下採掘場跡



4番 釜石鉱山花崗岩地下空洞



5番 イタリア、パドヴァにある ヴィラ・コンタリーニ



6番 パドヴァのパラッツォ・パパフォーヴァ




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