アバド逝去

クラウディオ・アバドが20日に病気で亡くなった。享年80歳。マゼール、オザワ、メータ、テンシュテットら、カラヤンが自身の後任候補にピックアップした指揮者の中でも一歩抜け出た存在だった。胃癌からの再起を果たし、ルツェルン音楽祭などで元気な姿を見せていたのだが・・・。

私がアバドの指揮ぶりを知ったのは1970年代初頭だった。当時、NHKのFM放送で流れたウィーンでの公演(オーケストラはスカラ座フィルハーモニー)の実況録音を聴いて非常に感銘を受けたのを、昨日のことのように鮮明に覚えている。

ジークフェラインザールで演奏された曲目はロッシーニの序曲集だった。どの曲も、もぎたての果実のようなピチピチした新鮮さにあふれ、小気味よいリズムのノリの良さでオケをドライブしてゆくので、聴いていて思わずワクワクしたものだった。イタリアのオケならではというのか、流線型のカンタービレも見事なもので、陽光輝く青空の下を、春風が吹き抜けてゆくようなすがしさを感じた。

しばらくして、ドイツグラモフォンから4つのオーケストラを振り分けて録音したブラームス交響曲全集が発売された(第1番はウィーンフィル、第2番はベルリンフィル、第3番はドレスデンシュターツカペレ、第4番はロンドン響)。第4番のロンドン響との録音だけがDGらしからぬEMI的なこもった音質でイマイチだったが(録音会場はアビーロードスタジオ)、他の3曲は上出来だった。

特に第2番は、録音会場のベルリン・イエズス教会の音響が、のびやかに音楽を呼吸させるアバドと相性が良くて、歌心にあふれた瑞々しいブラームスを聴かせた。LP発売当時、重厚なブラーム演奏の対極にあるこのスタイルに対する賛否両論がヨーロッパでも出ていた。わたしは演奏の見事さから、直感的にポストカラヤンベルリンフィルのシェフは、アバドしかいないと思ったものだ(予感はその後的中し、わが意を得た人選だと思った)。

CD時代になってアバドの1回目のブラームス全集は海外でCD化されたものを買ったが、その後はなかなかお目にかかれない希少アイテムになっていた(特に3番、4番)。近年、タワーレコードのヴィンテージシリーズから、ハイビット・ハイサンプリング音源によるリマスター盤が再発売されたので、直ぐに手に入れた。初期CDの硬い音に比べると音質のふくよかさが増していて聴きやすくなってはいるものの、第4番のもっさりした音質は相変わらずだった。

80年代の終わり頃から録音が始まった2度目の全集録音は、4曲ともベルリンフィルを指揮して恰幅のいい堂々たるスタイルに仕上がっていた。横綱相撲のような貫禄で王道を行く内容で、聴き応えのする立派な出来栄えだったが、新録音の登場で最初の全集の魅力が失せたわけではない。特に第2番の1回目の録音(オーケストラは2度目もベルリンフィルなのでややこしい)は、アバドが遺した数多い録音のなかでも、若き日のこの人にしか出せなかったテイストを色濃く感じさせる点で、わたしにとっては特別な1枚になっている。



1970年録音

1988年録音