黒猫・白猫

東京国立近代美術館で明日から始まる「菱田春草展」のレセプションに行ってきた。36歳で亡くなった天才画家の久しぶりの大型展。「落葉」の屏風など主要作品がズラリと並ぶ圧巻の内容だった。

春草の穏やかで洗練された色使いは、明治時代の作品とは思えないモダンな味わいがある。初期作品には狩野派の影響があるが、そこから脱し、晩年(といっても30歳代前半)になるほど画風が垢抜けてきて、時代を感じさせない。海外に出て向こうの様子を見てきた成果なのかもしれない。今回の展示は見どころ満載だが、わたしが気に入ったのは「猫」を描いた作品群である。

有名な「黒き猫」(重要文化財)は10月15日からの展示のため、今は出ていない。しかし、その他の黒猫、白猫は勢揃いしていた。春草の猫は、愛らしさを売り物にしていないところがいい。特に子猫の黒猫を描いた軸はよかった。何かにビックリして毛を逆立て警戒している姿や、木登りからおっかなびっくりの姿勢で降りてきた様子など、よく観察している。

猫もそうだが、鹿などの動物の毛並みの質感描写や立体感の出し方は、アカデミックな西洋絵画のように達者だった。丸みのある動物に対して、背景は平面的な色面構成で仕上げている。そういう和洋の異質な遠近法を組み合わせる手法には、新たな日本画の創出を狙って研鑽を積んでいた美術院の画家ならではの面白さがある。春草は将来的には日本画と洋画の区別がなくなると予想していたらしい。確かに100年後の現代の日本画はそんな感じになってきている(東山魁夷が描いた西洋風景や千住博の滝のシリーズとか)。

春草は1911年の9月16日に病没した。その年の春に仕上げた金屏風には、大正時代に流行する細密描写を予見させる凄みを感じた。穏健な画風から変化してゆく途中だったのかもしれない。最近は既視感のある展覧会が多くて辟易気味だが、この展覧会は充実の内容でおすすめ出来る。








画像は樹木や草花が一緒に描かれている作品から猫の部分を切り取ったもの。



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