ポンペイ壁画と古代ギリシア展を見る

東京国立博物館で明日から始まる「古代ギリシア展」の内覧会に行ってきた。ギリシア美術展はこれまでにも何度か見ている。どの展覧会もB級グルメ大会みたいなレベルで、ちょっとガッカリの内容が多かった。誰が企画してもローマンコピーが混ざるから仕方ないのだ。なので、今度もあまり期待はしないで出かけた。内覧会は午後2時から4時まで。その前に六本木の森美術館に寄って「ポンペイの壁画展」を見た。

有名作品(かなり大きな壁画)が出ていて、なかなかに見映えのする内容だった。2000年前に描かれたフレスコ画の保存状態が良く、色彩の鮮やかさに感心。日本でいえば熱海か軽井沢みたいな保養地の別荘に描かれた絵だが、ローマの宮廷や貴族の邸宅を飾った絵がどんなものだったかを類推する手がかりにはなる。三次元空間の把握は限定的で線的遠近法は不完全、消失点がはっきりしない曖昧さはあるものの、遠近感や立体感を感じさせるイリュージョニスムはかなり発達していたようだ。人体の陰影表現は上手で会場内のパネルに名前が出ていたミケランジェロの絵を連想させる堂々たる量感をたたえていた(ミケランジェロラファエロは古代美術を研究していたから、ポンペイ壁画みたいなものは彼らの先生格となる)。その一方で絵の周囲に装飾的にあしらわれたグロテスク文様とか小さな女神の姿などは可憐で繊細。英雄や神々の豪壮な肉体表現と儚げな美の世界が並立しているローマ美術はなかなか味わい深い。平日でもあり会場はガラ空き。展覧会の内容が優秀だから静けさの中で鑑賞出来て嬉しかった。

地下鉄日比谷線で六本木から上野まで乗り換えなしで移動して、公園内の緑の中を歩いていった。日差しはあったが緑の木陰が多いからそれほど暑くはない。途中、芸術院日本芸術院賞受賞作品展をやっていたので、ちょっと覗いてみた。日本画後藤純男さんの法隆寺の風景とか玉三郎の衣装とか。既視感あり過ぎ。

東京国立博物館では古代ギリシア展の内覧会が平成館で、本館では韓国国立中央博物館所蔵の銅製半跏思惟像と日本の中宮寺の半跏像を並べる展覧会の内覧会をやっていた。古代ギリシア展のお客さんは平服、仏像の方は着物姿の中高年女性がずらりとお揃い。ちょっと異様だった。

平成館の古代ギリシア展は第1室がいつもと逆の入り口。エスカレーターで登ったところが出口になっていた。第1室は新石器時代からアルカイックまで。第2室が幾何学様式からクラシック、ヘレニズム、ローマまで。展示内容は圧倒的に第1室が良かった。クレタミュケナイ文化関係がたいそうな充実。シュリーマンが見つけた黄金のマスクとかヴァフィオの金杯こそないが、美術全集に出てくるような馴染みの作品が結構あって大満足。黄金製品も立派な細工だった。アルカイック彫刻のクーロスとコレーも逸品が来ていた。あれは古拙なんていうものじゃない。方向性がクラシックとは違い、人体像にシリアスな内省表現を求めず、肯定的で前向きな世界観がある。健全な朗らかさをたたえた表情と、体脂肪率一桁みたいな弛みのないピンと張り詰めた若々しい肉体美には、理想化を志向する意思を感じる。教科書的には古典美=理想美とされるクラシックになると、薄く脂肪が付いて、ふっくら・ぷよぷよした現実感が勝ってくるから、見比べると随分と違う世界に立脚した造形であることが分かる。87年に西洋美術館に来たので2度目の来日である女性像コレーの衣装に付けられたドレープの様式美は、かなりの洗練を示しているし(中国では北斎北周〜隋の仏像が同じパターンを追求している。1000年ほどズレているが、何か関連あるのだろうか?)、墓碑の頭のパルメット文も素晴らしい均整美を見せて、一瞬アール・デコかと思ってしまった。アルカイックは装飾を重視した時代でもある。

第2室に入るとアッティカ幾何学様式の壷に始まり、古代ギリシア黄金時代の名作がずらりと並ぶ・・・のが理想だろうが、残念ながらエクセキアスの陶器とかパルテノンのエルギン・マーブル級は来ないし、リアーチェの戦士クラスもいない。墓碑も少数だったが、26年前、庭園美術館に来たステファノス君とまた再会した。ヘレニズム作品ではキュクラデスの海中から引き上げられたブロンズ像はよかったが、大理石は並。第2室はローマンコピーが目立ついつものB級グルメ大会に近い。過去に東京に来た作品もちょこちょこお見かけする。とはいえ、マケドニアテッサロニキで出土した黄金製品は凄いし、コインもいいものがたくさん展示してあった。展覧会の構成としては後半に目玉となる名品がないのでやや弱いものの、原作が並ぶ前半は密度が濃くて十分な見応え。内覧会は2時間しかなく、全体を丁寧に見ると全然時間が足りなかった。六本木のポンペイ壁画展とセットで廻り、都心で古典古代の美を堪能した1日になった。





この2人、写真映り悪過ぎ。実物は白く輝いていた。


再度の来日 ステファノス



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