ジョルジョ・モランディ展を見る

イタリアの画家モランディ(1890年 - 1964年)の展覧会を東京駅のステーションギャラリーで見た(4月10日まで)。新装なったステーションギャラリーに行くのは初めて。以前のような穴蔵っぽい空間ではなく、2階、3階を使った開放的なスペースになっていた。昔と同じなのは展示室内に赤レンガむき出しの壁があるくらい。表面に漆喰を塗った時に穿った傷がほぼ全部のレンガに見られた。工事現場みたいな荒々しい雰囲気が歴史を感じさせる。

モランディをまとめて見たのは1989年が最初だった。今はなき鎌倉近代美術館、有楽町アートフォーラムを巡回した展覧会。ついで1998年の東京都庭園美術館での展覧会も見たから今回で3度目。マイルドな静謐感の漂う画風で知られる作家である。ステーションギャラリーでは重複性の強い作品同士を隣り合わせにして並べていた。ちょっとだけ瓶の向きが違うとか、置き場所がずれているとかの微妙な違いを見比べる趣向なのだろう。どれも大差無いものばかりで、主催者は偉大なマンネリ仕事を強調したいのかもしれないとか、余計な想像をしてしまう。過去の展覧会と比べると、今回の出品作品の選び方にはちょっと偏りを感じる。

色がない版画やスケッチも置いてあったが、モノクロ作品は魅力がない。構図がワンパターンだから、色彩感で見せる絵なのだろう。花や風景画は大雑把な仕上げが気になる。やはり、この人は瓶や椀、小箱などをさりげなく置いた作品がいい。対象を見つめていた画家が過ごしたであろう時間、ゆったりと流れる静かな時を追体験させて飽きが来ない。同じモチーフを繰り返し描いた結果、それぞれが似ていることに意味がある。繰り返される日常に潜む普遍性。寡黙でありながら含蓄に富む絵。ショップで見た図録は(絵葉書も)色校正が杜撰で、気に入った作品の穏やかなベージュ色が、薄暗いねずみ色に化けていた。中間色のデリケートな色調が売りの作家の図録としては残念な出来。ステーションギャラリーの出口は2階にあって、東京駅北口の大ドームの2階回廊を一周出来る趣向だった。建築に特殊な味わいがあるから、なかなか面白い美術館だと思う。http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201602_morandi.html

帰りに大手町駅から東西線に乗って竹橋の近代美術館に寄り「安田靭彦展」を見た。3月30日にも来ているが、4月4日に展示替があり幾つか入れ替わったので再訪。相変わらず品位の高い歴史画に感心する。靭彦の色彩感がモランディに勝るとも劣らないデリケートな洗練を見せているのを確認した。唐時代の貴婦人を描いた作品(1926年)の薄紫にグレーとベージュが混ざった淡い色とか、ため息が出る微妙さ。線の画家として有名だったけど、色も凄い。4月18日に再度展示替があり、かなり入れ替わるからもう1回見に行く必要がある。幸いなことに会場内は空いていて、ゆったりと観賞できるので助かる。ちなみに上の階の常設展を覗いたら菱田春草の大作がずらりと出ていた。靭彦に春草とは。味なことをする。


レンガが孔だらけ






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