第57回 2014弦楽器フェアーを見る

北の丸公園科学技術館で今日から恒例の弦楽器フェアーが始まった。初日に覗いてきたのだが、会場が狭いのでちょっとビックリ。最盛期は1階の全フロアを使っていたが、今回の展示スペースは9分の5に縮小されていた。

チェロの出品は元々多くはないので、端から順番に試奏させてもらった。シャコンヌさんのブースではオールドチェロとあそこの新作を試す。ハイアーチのオールドの方はつまり気味の鳴り方で感心しなかったが、シャコンヌのオリジナルは新作にしては枯れた風味のある音色でいい感じだった。

昨年、非常に高性能なチェロを出された会長の園田さんは、今年はバイオリンだけだったのが残念。バイオリンは相変わらずドイツ仕込みの高精度な出来で貫禄を見せていた。

畏友の伊東三太郎は、バイオリンとチェロを出品。バイオリンはいつもの様にとろける甘さが魅力的なイタリアントーンが全開。赤みの強いニスも存在感があった。一方、チェロは調整不良のようで、音がぼやけ気味。低弦(スピロコア)がふやけていて、ブリブリ鳴らないのだ。それを指摘したら、早速魂柱の位置をいじり始めた。本人のアトリエはフローリングで響きがいいという。そういう場所ではいい音が出る調整なのだそうだ。一方、弦楽器フェアの会場はデッドで騒音だらけ。柔和でデリケートな音を出す楽器は不利である。

魂柱をキツ目に立てて音のエッジを若干シャープにした結果、かなりすっきりしてきた。さらにエンドピンが10ミリの鉄パイプ(モラッシの工房から仕入れた品だそう)を使用しているのも音の芯がボケる原因である。そのことを話したら、会場のパーツ屋から鉄無垢のエンドピンを購入して差し替えたという。劇的に良くなったと帰宅後にメールが届いた。私はエンドピンやテールピースなどのパーツは、いろいろな種類を購入して音の具合を確かめてみる主義だが(エンドピンは12本ある)、作者は案外無頓着なところがあるようだ。

その他では、今回初参加の鈴木徹さん(クレモナ在住の作家)のチェロがよかった。音色は渋くて、たくましい低音がモリモリと出てくる。反応性がいいので嬉しくなってしまう。鈴木さんはコントラバスとチェロが専門らしいが、デル・ジェスモデルのバイオリンも1本、コントラバスの脇にちょこんと床に直置きして出品されていた。それもオールド仕上げに似つかわしい丸みのあるこなれた音が出ていた。

しかし、今回の弦楽器フェアで一番驚いたのは、宮地楽器のブースに置いてあった菊田浩さんのチェロだった。菊田さんはコンクールで上位入賞を繰り返しているクレモナ在住の作家さんである(元NHK音響技師。中年から弦楽器作家に転向した方)。2003年のラベルがあるので最新作とはいえないが、クレモナの学校で勉強していた時代に箱を組み立てて、そのまま放置。最近になってニスを塗って仕上げたものという。このチェロ、音のキメが細かくて粒立ちが良く、バランス、音量ともに非常に好印象。ウルトラスムーズな発音性能を持つ楽器だった。イタリア産の上等な生地を使ってビシッと仕立てられたスーツを見るような感じ。端正な佇まいの中に仄かな甘さが隠し味に入っているような。菊田さんがこれまでに手がけた唯一のチェロだという。最初の1本がこの完成度とはおそれいった(非売品とのこと)。私の興味対象はバイオリンからチェロに移ったので、菊田さんの楽器(バイオリンしか出品されてこなかった)は毎回、きれいな仕上げの様子を見るだけで済ませてきた。今回、実際に楽器を弾かせてもらって、遅ればせながら評判の高さを納得した。

恒例の出品楽器を使う演奏会も、毎日、地下のホールで開催されている。今回のチェロの演奏会は11月1日(土)の12時から45分までと13時からの45分間だけ。門脇大樹というチェリストが演奏する予定。バイオリンの演奏会は3日間毎日ある。ユネスコ平和芸術家の二村英仁さんがソロを弾く。今日も聞いたが、テクニックがたつ人なので、どの楽器も一様によく聞こえてしまい、違いはそれほど鮮明には分からなかった。







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