弦楽器フェア2日目

12時から出品中のチェロを使ったコンサートがあり、友人の伊東三太郎氏の楽器も出るため再度科学技術館に出向いた。演奏者は門脇大樹という若手チェリスト。芸大を出てからイタリアとオランダで勉強し、現在は神奈川フィル首席とのこと。

バッハの無伴奏組曲第1番プレリュードから始まり、ベートーヴェンソナタ3番、ブラームスソナタ1番、ドビュシー、ショパンソナタシューマンの幻想小品集などを弾いてくれた。私は、門脇さんがA線を弾く時、姿勢をかなり動かしているのに注目。チェロに回りこむような姿でA線を弾くのだ。あれなら無理に右腕を伸ばさなくてもいいから合理的に思えた。反対にC線の時も、逆方向に身体の位置が動いていた。チェロ自体はほとんど動かないので、上半身がチェロを取り囲むように行ったり来たりするのだ。私が最初に習った先生は体は動かさない主義で、腕をかなり無理な姿勢で伸ばしながら弾かされた(右肘が高い位置に来ないとA線を弾けない姿勢を強要されていた)。門脇さんの奏法を観察していて、大きなヒントを貰った。

演奏会は12時から12時45分までが前半、13時から13時45分までが後半で、合計9本のチェロが舞台で弾かれた。ソナタの1楽章を前半に、2、3楽章を後半の部に弾き分ける場合もあった。

昨日の夕刻、エンドピンを鉄パイプから鉄無垢に交換した三太郎氏のチェロはドビュシーのソナタの演奏に使われた。エンドピンは石田秦史さんのところで開発したものを購入したそうだ。石田さんによると、鉄無垢で無装飾なタイプが一番いいらしい。金メッキ、ブロンズメッキなどいろいいろ試した結果、生成りが一番とのこと。その生成りの鉄無垢エンドピンのお陰で大分スッキリとした鳴り方に変わったらしいが、フランス音楽にふさわしいソフトで甘い音も抜かりなく出していた。中低音がおぼろげで拡散傾向のふんわりタッチになるのは三太郎の楽器の持ち味。その美質は変わってなかった。

昨日、私が試奏して「なんじゃこれは?」と思ったガサガサな音を出す西村朔太郎さんの楽器(宮地楽器のブースで展示)は、前半の部では一番遠音が効いていて、前に出る伸びやかな音が聞こえていた。ガサガサ・チェロがどうして?と不思議に思い、演奏会終了後にブースで弾かせてもらったら、昨日とは大違い。がさつさは消え、なめらかな発音性能に変化していた。魂柱の位置が狂っていたので今日の朝、調整を行ない、駒もフレンチからベルギー駒に変更したのだという。昨日の風邪を弾いたような音は調整不良のせいだった由。三太郎氏がエンドピンを別ものに差し替えたように、会場に持ってきてからの調整が必要なケースもあるから、図体が大きいチェロは厄介なものだ(今日のお天気は雨だったし)。

13時からの後半の部ではジョルジョ・グリザレスとシャコンヌさんの新作も出てきた。グリザレスの楽器は、ハーゼが飛んだ材料に塗られたニスが綺麗で惚れ惚れとする美しさ。だが音の方はドライで無愛想。甘さのない禁欲的な音がした。シャコンヌのオリジナルニスを塗った茶色いチェロは、渋みが勝った鋭い音。甘い音を出すチェロをいくつか聞いた後では、ふくよかな味わいが不足するのを認めざるを得なかった( 枯れた音色といえば、そうともいえる)。

チェロの演奏会が終わってから三太郎氏の楽器を弾かせてもらったが、エンドピンを交換する前の昨日と比べると、音の濃さが違っていた。鉄無垢のエンドピンを装着してからは、クリーミーなチーズみたいなこってり感が加わって、甘さも倍増したような雰囲気。静かな場所でじっくり弾いてみたいと思わせる魅力があった。

その他では、マツオ商会のブースに置かれていたコラード・ベッリのチェロ(600万)が、これぞイタリアンという甘美な音。バランスも完璧。見た目も極上の逸品だった。弓では島村楽器アンドレ・ヴィネロンを試してみた。私が使っているヴィネロンの子供の作である。剛弓で豪快一本槍といった風情。デリケートな音色の魅力は少なく、お父さん作の含蓄あるテイストには一歩及ばないところがあった。昨日、感心した鈴木徹さんのチェロは、ボガロ・クレメンテのハードケース(30万相当)を付けて120万でいいとのことだった。クレモナに持って帰りたくないらしいので、明日の最終日はもっと安くなるかも。低音がずんずん響く高性能でお買い得なチェロを探している方は、交渉してみるといい。

15時半から16時15分までと、16時半から17時15分までの合計90分間は、バイオリンの演奏会を聞いた。演奏者は昨日同様、二村英仁さん。相変わらず全部の曲を暗譜で弾いていた。どれだけレパートリーがあるのだろう?今日もバリバリとパガニーニなどを弾きまくって、どの楽器も二村色に染め上げておられた。11本弾かれた中では。陳 宇さんのバイオリンが含みのある表現力で頭一つ抜け出ていた印象を受けた。明日、最終日もバイオリンの演奏会があり、トラブッキや園田さんの楽器が弾かれる(14時45分から16時30分まで)。2日間で私は、のべ4時間半の演奏を聞いたことになる。あそこの地下のホールはややデッドな音響なので、後ろの方の席で聞くといいようだ。

帰宅後、会場で触った楽器の感触の記憶が残っている内に、わが家のチェロを取り出して弾いてみた。どれも発音性能に関しては問題ないレベルで安心したが、イタリア新作の甘い音(ホイップクリームに蜂蜜をかけたようなイメージ)だけは真似が出来ない。あの独特の甘美な世界は、どうやって出来ているのだろう?不思議。






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