太めで長めがいい感じ〜弓の革の巻き直し

リヨンのダベール工房の弓を持っている。手持ちのドイツ弓とは対照的な軽快なタッチ。パワーよりも音質優先といったキャラ。繊細で温和な音質が気に入っている。しかし、ドイツの剛弓から持ち替えると、大人しいというか若干頼りない印象もある。スティックに巻いてある牛革が老化して固くなっているし、元々薄くて短めに巻いているから、しっくりと手に馴染んでくれない。革が弓の印象を悪くしているのかも。

こういう場合、ゴムチューブなどを被せて使う人もいる。私もかつてその手の巻物を弓に装着して使っていた。しかし、チューブが竿の振動を吸収してしまう悪影響が出るため止めてしまった。わずかだが発音性能が鈍くなるのだ。そこで、今回は革を巻き直してみることにした。いつもお世話になっている工房に持ち込んで「長めの太め」でお願いしてきた。巻革には牛革とかトカゲの革とかいろいろある。指の当たりが柔らかいのはプレーンな牛革。トカゲは見た目はゴージャスになるが、タッチはハードになる。太さと長さは工房に一任した。「見た目のバランスが変わってしまいますが、構いませんか?」と店主から聞かれたが、全然OK。以前、別の弓の革を巻き直してもらい、すこぶる満足した経緯があるので。

今日、完成した弓を引き取って来た。結果は画像のような状態。巻いた革の長さは50ミリと、以前の2倍以上になっていた。太巻なので指で摘んだ時のクッション性能が飛躍的に向上している。持ちやすくなった結果、巻き直す前に感じていた頼りない雰囲気は解消し、ボーイングの安定感と弦への吸い付き感が向上した。増加した革の分だけ重量も増えて、バランスが後方に微妙に移動しているはずであるが違和感が出るほどではない。

スティックに革を巻くのは、指先や爪がいつも同じ箇所に接触することになると木材が削られ、凹んでくる現象を回避するためである。革がすり減ってめくれてきたら迅速に交換する必要がある。ヴィンテージ弓は、竿の手元の六角柱形のエッジの保存状態がいいか悪いかで評価額が変わってくる。だから、指が接触する可能性がある部分全部に革を被せて使っている人もいる。そんな資産価値に関連する保存対策はともかくも、操作性能に影響が出る部分なので、弓がしっくり来ないと感じた場合は、革を変えてみるといい結果が出るかもしれない。使用する革の種類によって値段が違ってくるが、2000〜3000円ぐらいでやってくれる工房が多い。

今年の6月だったか、アルシェの技術者による弓の講習会に出た時、革を巻く作業の実地体験をした。一見、どうということもない単純作業で素人でも出来てしまう。とはいえ、こういうシンプルなパーツの交換にこそ、職人の腕の差がはっきり出てくる。下手に巻いた革は、どことなくだらしない風情になるのだ。



         ↓



にほんブログ村 クラシックブログ チェロへ
にほんブログ村