まとめて毛替

最近4年間は弾いてないバイオリン弓の毛替をする必要が生じ、お世話になっている工房にまとめて4本を依頼した。馬毛はモンゴル産無漂白毛と漂白してあるモンゴルを選んだ。チェロ弓でいつも指定しているカナダ産毛は、バイオリン弓には強すぎると店主がいうので見送った。フレンチ3本は無漂白。ジャーマン弓は漂白毛で交換してみることに。弾き味は無漂白の方が噛みが良く、しなやかな弾力が感じられる。漂白毛は毛がダメージを受けているので若干上滑りする印象。しかし粘りの強い松脂を選べば使えるレベルだと思う。

どの弓も半年〜1年以内で交換すべきだったが、前回の毛替から10年ぐらいは経っているような気がする。古い毛はかなりの細毛で、そこまで細い馬毛を持っている工房を日本で見つけるのは難しいだろうと聞いていた。また、下手な人にやらせるとフロッグの金や銀の金具(半月リング)に傷を付けられたり、毛のバランスが狂って弓の性格が一変するおそれがある。そのため毛替は躊躇し、いろいろある弓をローテーションしながら使ってきた。近年、都内の工房で何度かチェロ弓の毛替をして、あそこなら安心して委ねられると判断。ようやく毛の交換に踏み切った。

結果は、やはり弓の弾き味は多少変化したようだ。フレンチ①(1890年)はシャープでブリリアント、前に出る攻撃的な性格だったのが、より穏健で抑制の効いた性格になっている。新しい毛はまだ馴染んでないからその影響もあるだろう。今後、吸い付きや発音が変わってくる可能性はある。フレンチ②(1940年)も骨太な弾き味と湿潤系のしっとりした音色が薄まり、より繊細で丸みのある細身の音になった。弓が少し若返ったような感じ。フレンチ③(1870年)も同様で、枯れた古色を帯びたシルバリーな音色が、ゴールド系の華やかさ、艶やかさを持つ音質に変わった。おばあさんがお姉さんに変身してる。

総じて毛が新しくなると、音色もジューシーというのか、フルーティーというのか、そんな感じに変わってくるのは毎度のことである。今回は同じ工房での同時交換。使われた毛も共通しているからテイストが似通ってくるのかもしれない。

新しい毛に松脂を付けて馴染ませるのは厄介である。最初にギヨームの松脂を塗ってみたがノリがイマイチ。ついで缶ベル、ラファンなどで様子を見た。新しい毛に松脂を十分に含ませるには、ワインのコルク栓を縦に半分に切った断面に毛を擦り付けたり、毛を布で拭いたりする(弓製作者から伝授された方法である)。松脂に毛を擦り付けているだけでは、なかなか。

シルバートーンを出していたフレンチ③には、現行ベルナルデル(青い布製ポーチに入った松脂)を付けてみた。いくらか音抜けが悪くなる松脂であるが、キラキラしないで落ち着いた渋めの音色が戻ってきた。漂白毛を張ったジャーマンにはラファンの松脂が合う。粘りが強いため噛みが改善され、無漂白毛との差は小さくなった(それでも毛質の違いは分かる)。粒子が細かいタイプはしっとりしているものの、マットな音質になりがちだから音の立ち上がりは鈍くなる。噛みが良くてザラつかず、潤いのある透明度が高い音を出す松脂となると、昔のグスターブ・ベルナルデルだろうか。いろいろ試してみよう。




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