「楽器選びは店選び」

ジョセフ・アルトゥール・ヴィネロンのチェロ弓3本を比較する機会があった。このメーカーの弓は剛弓として知られ、相性さえ合えば頼もしいパフォーマンスを堪能できる。残念ながら日本ではサルトリーみたいに知名度が高くなく、知る人ぞ知る存在となっている。どこの楽器店にも置いてあるわけではない。そんなヴィネロンを3本、同時に弾き比べられたのはラッキーだった。

音色は3本ともよく似た傾向で、ベタつかず音離れがいいサラッとした感触。良くブレンドされた丸みのある肌理の細かい音が出ていた。スティックのバランスや弾き心地も3本そろって同じ性格で違和感はない。同じ作家なので似ていて当然かもしれないが、弓は天然素材ゆえの個体差が大きいから、ここまで似ているとは意外だった。

そうはいうものの、多少の(というか決定的な)違いもあった。いわゆる弓の腰というやつで、スパゲッティのアルデンテみたいに、しなやかな中にも一本硬い芯が残っている感じがするのは1本だけ。他の2本は、ゆですぎて芯が消えた状態のようだった。ヴィネロンの弓は製作されてから100年以上が経過している。その間に酷使されてきた弓は、材の疲労でスプリング性能の劣化が進んでしまう。コンディションが良好なものと比較すると、その違いは明確にわかるが、今回のように3本同時の比較ができない場合は、ヴィネロンの弓とはこういうものかと思ってしまうかもしれない。

「楽器選びは店選び」という。多くを見て比較する機会がないアマチュアにとっては、現役として使える弓(=消耗していない弓)を厳選する眼力と見識を持った店主がいる店を探すのが、結局はいい弓に出会う早道なのだ。



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