アルシェの弓

楽器フェアの会場で触ったアルシェの弓が気になっていた。新作チェロの演奏用に提供されていたSA−PROというモデル。作者はアルシェの看板作家の大瀬国隆さん。この弓、フェア会場で最初に触った時は、軽めで焦点が多少散漫気味の印象があった。要するに、あまり魅力を感じない弓だった。 しばらく会場内を回っていろいろ他の弓を見てから、再度、同じ弓を持ったら、今度は印象が激変。ずっしりした手ごたえのある重厚な剛弓に感じられた。思わず違う弓かと疑ってしまった。同じ弓なのに印象が変わってしまうのはなぜだったのか?その理由を確認したくて出品元の文京楽器に問い合わせた。在庫で持っているというので出向いて触ってきた。

数年前まで文京楽器は後楽園に近い文京シビックホールの近所にあった。1階が吹き抜けの空間で床や壁は大理石貼りだったから、弦楽器が素晴らしく美しく響く店だった。ところが、今は本郷三丁目駅寄りのオフィスビル1階に移転していた。建物の内部空間が狭く、特に天井が低いので、以前とはかなり雰囲気が変わっていた。

それはともかく、あらかじめ試奏を予約してあったので、私が見たかった弓と、同じ作者の上位グレードの弓(SA−SOLO)の2本が準備されていた。楽器は19世紀のフレンチを借りた。試奏室は4畳ぐらいの小部屋。

10日ぶりに再会した弓を持った瞬間・・・?? フェア会場での第一印象(=軽めで焦点が散漫気味)そのままなのだ。重厚な剛弓のイメージはない。フェア会場は周囲でいろんな人が楽器を弾いているので騒音状態だったから、この弓の音色の傾向までは判らなかった。今日、じっくり吟味したところ、高音がザラつき気味で滑らかさが不足する弓だと判明。良く言えば渋味の勝った音色。新作弓にありがちなタイプである。

もう1本の上級弓に交換してみると、かっちりした弾き心地は同傾向だが音質から雑味が消えた。つるんとした丸みのある音色が出る。さすがに5割増しの価格差は正直なものだと思った。

しかし、今回見せてもらった2本の弓の音色は白色傾向で、よく言えば癖がないニュートラルなキャラ。悪く言えば面白味に欠ける。セカンド弓として持ったとしても、たぶん出番はないだろう。お店の人は2割引くと言っていたが、音色に特徴がない弓は欲しいとは思わない。新作弓の限界を見せつけられた結果となったが、フェア会場で最後に見た時は、随分と重厚な弓に思えたのは、なぜだったのだろう?

その直前まで触っていたのが、杉藤のかなり軽い弓だったことを思い出した。




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