弦楽器フェアを見てきた

科学技術館で開催される恒例の弦楽器フェア、初日の午前中に会場に入って見てきた。今年は出品者が少ないのか、いつもよりスペースが狭く、会場1階の3分の1ほどは未使用だった。最後はお弁当売場になっていて、かなり寒々しい雰囲気。私は地階のレストランを利用した。

毎回注目している伊東三太郎氏のチェロは、今年はやや辛口仕上げで、去年の出品楽器の、おつりがくるほどの豊饒な甘さは影をひそめていた(といっても、十分にイタリアンな甘めの音だが)。今年の楽器はパワーを重視し、弦高を昨年より高く設定したのだという。弦はスピロとヤーガー。4本のバランスはきれいに整っていた。惜しいことに、横板に軽微な凹凸変形が出てしまったそうだ。実用上は問題ないレベルだったが、チェロではそういう事例を時々見かける。これがオールド仕上げの楽器だったら、むしろ巧妙な技と評価される。同時出品のバイオリンは、仕上げも上出来で、いつものとろけるようなクリーミーな甘い音が健在だった。

近所にチェロが何本も並んでいたので順番に試奏したが、園田信博さんのチェロ(ビオラも)は例年通りの高性能な出来で、今年も感服。ドイツのポルシェみたいなイメージとでもいえようか、細工はパーフェクト、音はスマートで紳士的(ストイックな傾向ゆえ伊東三太郎のチェロみたいな色っぽさはない)。ネックが細めで弾きやすかった。あの出来で300万ならお買い得だろう。

1996年春に55歳で亡くなった徳永兼一郎さんのために作られたチェロが、沢辺稔さんのブースに置いてあった。NHKが何度か放送したので「最期のコンサート〜あるチェロ奏者の死〜」を見た人も多いだろう。病院内で「鳥の歌」が演奏された時の使用楽器である(作者は佐藤正人さん)。弾かせてもらったが、完成後17年近く経過しているためか、音離れがよくて、浸透力のある音が出た。他のブースに並んでいるのは、出来立てほやほやの新作楽器だから、これと比べるのは酷かもしれない。

シャコンヌのブースには去年も見かけたストラドのチェロが置いてあった。「手を触れないでください」の張り紙があったから弾かなかったが、後世にF孔を切り直して縦長に延長した楽器だそうで、顔つきが変だった。スクロールの渦巻あたりには、それっぽい雰囲気を感じたが。

中国から来て都内で工房を開いているガンさんのバイオリンは2本出品されていた。音はオールド仕上げのdel Gesuモデルがこなれている印象で、4本の弦のつながりの滑らかさが好印象。D線、A線の音にほのかな色香が漂うのもいい感じ。アルコールニスで仕上げたという節度ある古色付けが、上品な雰囲気を醸し出していた。

15時から地下のホールで川畠成道さんの演奏会があり、バイオリン5本が披露された。伊東三太郎とトラブッキの楽器がいい感じ。前者は甘くてしっとり、きめこまやかではんなり。後者はブリリアントでソリスティック。他に、庄司昌仁さんの楽器はフレンチ風のチョットくぐもったところのある華やいだ音が出ていた。

午前中は会場内が空いていて楽器の音を確認しやすかったが、午後3時頃から混雑が始まり、17時頃は、いつものようにそこらじゅうで楽器を弾いている喧噪空間になっていた。そうなってしまうとチェロの試奏は不利で、周囲にあふれるバイオリンの音にマスキングされ、自分の音がよく聞こえなかった。といいつつ、私もチェロとバイオリンとビオラを端から順に弾いていた(^^;)





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