日本一の高層ビルを見物

大阪、天王寺駅前に落成したあべのハルカス美術館を見てきた。中は驚くほどの無個性空間。ホワイトキューブそのまま。何を展示してもいいようにニュートラルなデザインにしているのだろう。しかし、無個性と美術品を引き立てる名脇役とは意味が違うので、もう一工夫が欲しかった。

初回の「東大寺展」の内容は地味に手堅くまとまっていた。「誕生仏」の展示が目玉らしい。ひょっとすると、ビルの開館と語呂合わせなのかも?「誕生仏」も含めて、狭いケースの内部空間に対して過大な作品を押し込めた例がいくつかあった(国宝の「重源上人像」など)。窮屈感があって展示品が萎縮して見える。博物館的に考古資料を並べる発想に近いので、展示デザイナーが入ったようには思えない出来だった。

美術館のある16階のフロアには外に出られるテラスがあった。小さな庭園がしつらえてあり、緑の植え込みから眺めた大阪の景色は思い出に残った(ぞろぞろと行列して最上階60階の展望室に登る興味は起きなかった)。

あべのハルカス本体(高さ300mで日本一)は、敷地に合わせて変形させたひしゃげた直方体を寄せ集めた構造。積み木の塔みたいで、洗練されたフォルムではない。外装はガラスのカーテンウォール。軽やかな雰囲気を演出している。空に溶け込むような透明感のせいか、写真で見るよりもビルの実体感は希薄だ。数メートルほど高さが違う横浜ランドマークタワーの石張りのモニュメンタルな堅牢感、壮大さとは大違いである。テクニカルな見せ場を作っているが、300mの高層建築を、わざわざ神経質に見せなくてもいいような気もする。大地震でガラスがバラバラ落ちてきたらと想像すると怖い。この手の高さを競う発想は、もはや時代をシンボライズしていない観もある。陳腐化するのが早そうな外観をデザインしたのは、シーザー・ペリというアメリカの建築家。

取り壊された旧近鉄百貨店の外壁は、豊穣のシンボル「ぶどう唐草」の透かし彫りで飾られていた。上方らしい古典的で雅な風情は、無国籍、無機質なデザインに転換。いい意味でのローカル色がまたひとつ消えた。










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