チェロのギア式ペグはお勧め出来ないという話を聞いた。

チェロ教室の仲間(複数)が近所のチェロの先生(楽器の修理や調整もやっている器用な人)に勧められてギア内蔵ペグ(ウィットナー製)を付けたのだが、私がお世話になっている弦楽器工房の主人から聞いた話では、ギア内蔵ペグはペグボックスの片側の壁の孔でしか弦の張力を受け止めない構造という。もう一方の側の孔にもペグの先端が刺さっているように見えるが、実際はダミーのキャップで空中に浮かんでいるようなものだそうだ。

これが何を意味するかといえば、ペグボックスにかかる圧力に偏りが生じるため、いずれはあそこの箱が変形する可能性があるとのこと。その影響なのかどうかわからないが、教室の仲間の女性がギア式ペグに交換した新作楽器は、以前より明らかに鳴り方が悪く音がこもってしまった。木製ペグの時は軽やかに発音する当たり楽器だとほめていたのに、すっかり音が鈍くなっていた。私はギア式ペグの構造については詳しく知らないが、装着した結果、音が劣化した事例は確認している。ペグの材質を黒檀から柘植に交換したり、ローズウッド、フェルナンブコ、スネークウッドに替えると音が変わってくる。材料それぞれの持ち味があるわけで、プラスティックと金属で出来た部品の場合、その素材の組合わせで銘木を凌ぐ良質な音が出るのかと問われると懐疑的にならざるを得ない。

また別の人があれを装着したチェロを調弦している最中にギヤが故障して空回りを始め、まったく調弦不能になったのを目撃している。素人には手も足も出ない状態でうろたえるばかりだった。ステージでの本番直前でああなったら怖い。一見便利そうだが、構造が木製ペグよりも複雑なだけに故障リスクが高いと認識した。

そういう話を聞いた女性は元の木製ペグに戻そうとしたのだが、ギア式に交換する際に孔を拡張したため元のサイズのペグは使えず、新たに太いペグを買って装着することになった。もっとも最初に付いていたオリジナルペグは、例の教師件修理者に交換作業を依頼した際に廃棄(?)されたらしく、楽器の所有者には戻されなかったそうだ(普通は外した部品は持ち主に返還される)。

ギア式を付けた時に数万円を支払ったものの、音が曇るし楽器にダメージを与えかねない部品と聞いて怖くなり、別の工房で木製ペグに戻したという顛末。短期間に無駄に出費がかさみ、高い勉強代についたようだ。ギア式ペグを問題視している工房の店主は、ギア式への交換を勧めている某先生のことはよくご存じだった。


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