新作楽器でソロ

知人が参加しているアマオケのコンサートを聞いた時のこと。プログラムの中にドヴォルザークの「バイオリン協奏曲」が入っていた。ソロを弾いたのは、かねてより存じ上げている芸大でも教えているプロ奏者。バイオリンの音がいつもと違って冴えないので、どうなさったのかと思ってしまった。中音域は温かみのあるきめ細やかな音色で、渋い曲想に似つかわしい感じだったが、高音域は伸びが足りなくて地味。それでなくてもドヴォルザークのバイオリン協奏曲は労多くしてあまり報われない曲だから、ソロがオケの音にかき消され気味で気の毒だった。

ソリストの先生はいつもはテストーレ(1730年)を使っておられるのだが、今回はニスが新しそうに見える楽器を弾いていた。後で知人に聞いたらマリオ・ガッダだという。借りものの楽器をお試し中で、舞台で使って様子をみられたとのこと。あまり弾き込んでない新作楽器なら、鳴り方がおとなしくても仕方ない。 彼も「中低音のパワーを重視したのでしょうが、モダン楽器風の箱鳴りが耳についたし、高音の伸びは、おっしゃる通り、いまひとつでした」と言っていた。

2008年に亡くなったイタリアの製作者マリオ・ガッダは1931年の生まれで、父のガエタノ・ガッダも著名な製作者。 息子も現代作家の中では、いろいろな意味で有名な存在だった。協奏曲を弾いたバイオリンの先生のお嬢さんはチェロを勉強していて(芸大卒業後、東欧に留学)、マリオのチェロを弾いている。彼女が演奏するドヴォコンを聞いたことがあるが、骨太な音色で音量も豊かないい楽器だった。お父さんが借りたバイオリンより出来がいいかもしれない。父娘のご両人によるドヴォルザーク&マリオ・ガッダの珍しい体験をさせてもらったのはラッキーだった。

協奏曲のソロを新作楽器で聴かせてくれるソリストは、そんなに多くはない。有名なところでは、イ・ムジチの初代リーダー、フェリックス・アーヨがMario Cappicchioni(1956年)のバイオリンを使って1959年に録音したヴィヴァルディ「四季」だろうか。ベストセラーになったレコードなので、古くからのクラシックファンにはおなじみだが、あの甘美な音が新作楽器から出ていたとは意外な気もする。他にはクリスティアン・テツラフがドイツのシュテファン=ペーター・グライナーの新作バイオリンでコンサートや録音をしている。彼はドライカーボン弓を使うので音色は・・・。チェロでは晩年のフルニエが新作を愛用していたと未亡人が話すのを聞いたことがある。新作チェロによる録音が残っているかどうかは知らない。







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